最近の10年は大激変の時代だと言われるが、その変化と並行して、あるいは部分的にはその変化への反応として、アメリカ人にはこれまでになく現状維持の精神が広がっている。それは、ライバル企業との競争や、職住の変更、新しいモノの創造を避けるなどのかたちで表れている。こうした傾向にある人々は「現状満足階級」と呼ぶことができよう。彼らは、現状を揺さぶるものを拒絶し、そうした姿勢を歓迎し、周囲に押しつける人たちが増えている。
現状満足階級は所得、教育、社会的機会が異なる3つの層から構成される。第1は「特権階級」だ。教育レベルが高く、社会的な影響力も強い高所得層である。海外で休暇を過ごし、優秀な子どもを持つ金融エリートや弁護士のような人たちだ。
第2は「自己防衛階級」だ。所得・教育レベルの面で中流の人である。資産のかなりの割合をマイホームが占め、不透明な未来に備えて蓄えを増やそうとする自己防衛的な行動を取る人である。
第3は「袋小路階級」である。不十分な教育しか受けず、自分と同じような属性や階層の人ばかりが住む環境で生活する人々である。
現状満足階級に共通する傾向は、身を置く環境がまるで違っていても、変化がゆっくり進むことをある程度まで受け入れ、前提にしている点だ。良くも悪くも、私たちの生活の平和と豊かさは、人々から焦燥感を奪った。それが現状満足階級を出現させた要因だ。
アメリカ人は従来、国内移住に積極的だった。そして、一般に高度な教育を受けた人ほど、移住に積極的になる。過去のデータによれば、大卒者の遠距離移住率は、高卒者の約2倍に達していた。教育レベルの高い人は、給料の高い職を見つけやすく、遠くに移住しても割が合うケースがあるからだ。しかし、いまのアメリカ人はかつてなく教育レベルが高まっているにも関わらず、移住率が落ち込んでいる。特にアフリカ系アメリカ人は、同じ土地に住み続ける傾向が強くなっている。
その要因のひとつは転職の減少である。職を変わる人の割合を示す雇用再分配率は1990年に比べて4分の3以下に落ち込んでいる。職が変わる機会が減ると、移住も少なくなる。また、労働市場の流動性が乏しく、新しい企業への参入率が低い現状では、以前よりも転職が難しくなっている。耐えられる程度であれば人々は現在の職にとどまるようになった。
もう一つの大きな理由としては、国内の経済的な多様性が乏しくなって、どこの地域もサービス業の雇用中心の似たような場所になったことが挙げられる。
また、地域間の経済格差が縮まらなくなったことも移住減少の要因といえる。以前なら、貧しい地域が豊かな地域の所得水準を追い上げ、貧しい州に新しいチャンスがあることが移住を促す原動力になっていた。しかし最近の傾向としては地域間格差が固定し、貧しい地域が人材を呼び込めなくなり、豊かな地域に追いつくのがますます難しくなっている。
移住が不活発な社会は、社会の創造性が低い場合が多い。また、移住の減少は
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