本書における「在野研究」とは、大学に所属をもたない学問研究のことである。前提として、執筆者それぞれの生活は異なる条件のもとで営まれている。本書の15人の著者が紹介している方法も、それぞれ視点が違う。自分の生活に照らして、読者自身がチューンナップしていくことが大切だ。
在野研究者のどこにメリット、デメリットがあるのかを考えるにあたって、本書ではまず政治学分野で在野研究をしている酒井大輔氏の事例が紹介される。政治学会にはジャーナリストや行政機関所属職員なども参加しており、政治学はそもそも研究者と実務者の垣根が低い。
それでも在野研究をするにあたって、以下の悩みを感じることがあるという。私費で賄う研究費(一部、テーマによっては助成金がでることもある)、大学図書館へのアクセスの制限、研究成果の発表先の問題、曖昧な肩書き、などである。その一方で、論文の発表先が学会誌であれば、平等に審査される。場合によっては、大学の研究者と共同研究という形にすることも可能だ。
そうした不利を乗り越えて在野研究をする意義は、失敗のリスクが大きい未開拓のテーマに挑戦しやすいことにある。研究活動が、生計の手段から切り離されているからだ。
在野であれなんであれ、論文を読むことはまず、楽しい。新しい知見に触れられるし、その分野の泰斗と「対話」できる。また論文や学術書を購入することで、研究基盤を支援することも可能だ。研究会や学会などに赴き、耳学問するのもよいだろう。その領域を概観できるし、そうした場で他者と討議することで、互いに違った視点を提示し合える。
こうしたことを在野研究者の立場で「趣味」として行うと、たとえば口頭発表で思考の整理をしたり、論文を書く自由を享受したりできる。逆に研究者の人たちをオーガナイズして、アカデミックな領域では業績にカウントされにくいがニーズはあるテーマについて、後方支援することにもつながる。変化に対応しやすいことが、在野研究の強みでもある。
サラリーマンをしながら週末に好きな研究をする人間を「週末学者」と呼ぶ。
分野にもよるが、ひとりでやることが中心の研究であれば、仕事のない時間を使って、誰でも週末研究を行える。英語にはindependent scholarという肩書きがあり、海外だと在野研究者は一般的だ。
仕事と研究の二重生活を続けるためには、人的なネットワークを構築し、毎週一定の時間を研究にあて、体力づくりを怠らず、研究内容によっては語学力を養うことが求められる。研究のしやすいフレックスタイム制や、文献を安く手に入れる方法を見つけること、ネットを含めた成果発表媒体を探すことも重要だ。
研究者としての作法を守り、読書会や研究会への参加などでモチベーションを維持して、自分を取り巻く環境について工夫を重ねれば、40歳を過ぎても退職後でも、在野研究を続けることはできる。
在野研究者にはさまざまな種類があるが、生物学の分野ではむしろアマチュア研究者が大きな役割を果たしてきた。
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