2008年、ノキアは世界トップの座にあった。かつて名もなき企業だったノキアは、新産業だった携帯電話業界の中で躍進を続けていた。ノキアの携帯電話は最先端技術と艶(あで)やかなデザインを備えており、世界のスマートフォン市場シェアの過半数を占めていたのだ。新聞や雑誌はノキアを「技術の神童」と称し、ビジネス通は同社の理念である「ノキア・ウェイ」をほめたたえた。
42歳の若さでそんなノキアの取締役会に参加することになった著者は、胸を躍(おど)らせた。最初の取締役会の開催が待ちきれないと感じるほどに。
その一方で、アップルは2007年に「iPhone」を発売し、かつてのノキアのように成功していった。翌年にはグーグルがオペレーティングシステム(OS)「アンドロイド」を導入し、リサーチ・イン・モーション(RIM)がスマートフォン「ブラックベリー」で急躍進する。そんな中、ノキアが新しい競争にうまく対応できていないことが明らかになっていったのだ。
取締役会に出席するうちに、著者が当初抱いていた憧(あこが)れは疑問や困惑、疑念へと変わっていった。アップルとグーグルが市場シェアを伸ばし、優秀な人材を引きつけて将来に向かって投資している一方、ノキアのシェアは縮小し、従業員をレイオフ(一時解雇)して投資を減らしている。それなのにノキアの取締役会は、失敗の原因を探すこともなく、新しい進路や代替案の議論もしていなかった。著者が取締役会でそうした議論を切り出そうとしても、ことごとく無視された。
著者が取締役を務めた4年間でノキアの時価総額は90%以上が失われ、2012年上半期の営業損失は、20億ユーロを超えた。1万人の労働者をレイオフした1年後には、ノキア市場最大規模となるレイオフを計画し、株価はたったの3ユーロになっていた。
2008年に称賛の嵐だった年次株式総会は、2012年には殺伐とした雰囲気に包まれていた。投資家はノキアを投資不適格銘柄とみなし始め、マスコミでは、倒産時期の憶測が飛び交うほどだった。
2012年、オッリラが会長を辞任し、著者がその座を引き継ぐこととなった。会長になるには難しい時期である。その中で進み続けるために活用したのは、起業家的リーダーシップの哲学だ。
起業家的リーダーシップの哲学は、著者が18年間かけて形成し、磨いてきた概念である。受付のスタッフからCEOまで誰にでも活用できるもので、あらゆる人や組織に必要な資質だ。
起業家的リーダーシップには、10個の要素がある。
(1)説明責任を負う
(2)事実を直視する
(3)粘り強さを持つ
(4)リスクを管理する
(5)学習依存症になる
(6)焦点をぶらさずに保つ
(7)地平線の先を見る
(8)好感を持ち尊敬する人たちでチームをつくる
(9)「なぜか」と考える
(10)夢を見ることを絶対にやめない
起業家的リーダーシップの根幹で求められているのは、パラノイア楽観主義者として振る舞うことだ。
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