「トイレは世界で最も幸せな部屋だ。トイレに入る前は居心地が悪く、不安でイライラしていても、出てきたらハッピーだからだ」。ミスター・トイレの異名をとる著者は、このように語る。
著者はゼロから40歳で社会起業家となり、2001年にWTO(World Toilet Organization=世界トイレ機関)を立ち上げた。WTOがめざすのは、人々にトイレの重要性を理解してもらい、世界中のトイレ健全化活動を推進することである。2013年には、国連の全会一致でトイレの日(11月19日)の制定にこぎつけた。
世界中どこにいっても欠かせないもの、それがトイレである。しかし、世界の3人に1人(約23億人)はトイレのない生活を送っているのが現状だ。彼らは物陰や川、茂みの裏などで用を足している。そのため、糞尿は処理されないまま放置されてしまう。そして、世界の人口の半数以上にあたる約42億人は、きちんとした下水処理がなされていない環境下にあるか、屋外で排泄しているという。
これは、川や湖、地下水の汚染の原因となっている。現に、水の汚染により命を落とす5才未満の子供は、毎年52万5000人にのぼる。また、世界中の女性の3人に1人が、安全なトイレ環境がないために、病気やレイプなどの危険にさらされている。
「トイレが確保されることがポジティブ連鎖の始まり」。この事実に、多くの人に気づいてもらうことが著者の願いだ。きちんとしたトイレが使えると、人々は尊厳を取り戻し、病気が減少し、就学率が向上する。ひいては、生産性も向上し、貧困の減少につながるのだ。
では、なぜ世界中のトイレ問題が改善されないのか。最大の理由は、トイレ問題がタブーとされてきたためだ。人々の羞恥心がトイレや衛生問題の解決を妨げている。
これまで、世界にはさまざまなタブーが存在していた。奴隷制、LGBTなど、タブーを壊そうとする人が登場し、そのたびに社会は進化を遂げてきた。このように、タブーをなくせば世界は大きく変わる。
人々の考えを変え、トイレというタブーを打ち破るために、著者がとった戦略はユーモア(笑い)である。なぜユーモアなのか。例えば、「トイレを使わなければ病気になる、死の危険がある」などと、恐怖をかきたててトイレを普及させる方法もある。しかし、著者の経験上、これでは全体のエネルギーが縮小してしまうことがわかっていた。一方、愛情をベースとしたアプローチをとれば、エネルギーが無限に広がる可能性がある。
たった3人で運営しているWTOのミッションは、トイレという社会課題の認知を高め、トイレをステータス・シンボルにすることだ。58カ国にまたがる235の協力メンバー団体とコラボレーションしながら、トイレ問題の普及に向けて、知恵を絞ってきた。
トイレ問題を優先的にメディアで報道してもらうには、それが面白い内容であることが重要となる。そこで、ユーモアがその最強の橋渡し役になるのだ。
トイレをたくさんつくる、資金を募るという方法ではなく、タブーと闘うことを著者は選んだ。それは、一人の人間で達成できることには限界があるためだ。もし1万個のトイレをつくっても、世界が必要としているのは10億個のトイレである。
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