本書は、宇宙の誕生から始まる138億年の歴史を、複雑さをしだいに増すプロセスととらえる。宇宙がエネルギーの広大な海から出現したときは、きわめて単純であり、宇宙のほとんどの空間は今も単純なままである。しかし、地球の表面のように特別な条件がそろった環境では、さまざまなものや力や生きものたちが複雑さを増しながら生まれた。
より複雑なものが現れたとりわけ重要な変わり目を、本書は「臨界」と呼び、これまでに8つの「臨界」があったと考える。「臨界」は、ちょうどよい程度が整った状態、つまり「ゴルディロックス条件」を満たした状態でのみ訪れた。要約はいくつかの「臨界」を中心としてまとめる。
宇宙の誕生は、第一の劇的な「臨界」であった。
宇宙の始まりの話を「どこから始めるのか」は難問だが、本当に「何もなかった」状態を「始め」として、ビッグバンを宇宙の起源とするのが今日もっとも広く受け入れられている。ビッグバンの直後には、固有の存在物あるいはエネルギーが生まれた。そしてエネルギーそのものが相転移し、「重力」「電磁気力」「強い核力」「弱い核力」の4種類に分かれた。
ビッグバンから1秒以内には物質が現れた。物質とは著しく圧縮されたエネルギーである。最初の構造や形状がどのようにして出現したのかは、いまだはっきりとわかっていない。ただ、少なくともそれらとともに、現在わかっている物理法則のような作動規定も出現した。そうして、「ありえない状態」が絶えず排除されたおかげで、最初の構造の出現は保証されたといえる。
ビッグバンから数秒後には原子の基本構造である中性子と陽子と電子、さらには陽子と電子の反粒子が現れ、物質と反物質を形成した。宇宙の温度が下がるにつれて物質と反物質は互いを消滅させ合い、残った物質は多様化していった。やがて陽子と中性子が結びつき、水素やヘリウムなどの原子が生まれた。
ビッグバンの猛烈なエネルギーにより、陽子や電子のような構造が生まれたが、このときのような高温が生まれることはその後なかったので、これらは安定した存在となった。
物質は非ランダムなエネルギーの流れによって一体性を保っている。方向性や構造や一貫性があって仕事を行なえるエネルギーは「自由エネルギー」、完全にランダムなエネルギーの流れは「熱エネルギー」と呼ばれる。
自由エネルギーが原動力となり、単純な形態の物質が重力によって集められ、最初の大きな構造である恒星と銀河が出現した。つまり、物質と重力がゴルディロックス条件を提供し、恒星と銀河の誕生という「臨界」を生じさせたと考えられる。重力によって無理やり集められた原子は頻繁に衝突し、多くの熱を生んだ。それにより、宇宙の大部分が冷え続ける中、物質が密集した部分は再び温度が上がり始めた。重力によって圧力が上がると、密集部分の密度はさらに高まり、中心部の温度が上がっていった。そして陽子が融合するとき、すなわち核融合が起きるときに発生する莫大なエネルギーが恒星を生んだ。
恒星は、エネルギーを生み出し続けなければ潰れてしまう。天体物理学者チェイソンが指摘しているように「複雑な現象ほど濃密なエネルギーの流れを必要とする」のだ。これはオリジン・ストーリーを貫く考えであり、現代の人間社会についても示唆的である。
恒星は何千億も生まれ、これらが集まり、銀河が発生した。始めは水素とヘリウムしかなかった元素にも、様々なバリエーションが生まれた。
すべての「臨界」のうちでもとくに根本的なものが、生命の出現だ。生命は40億年近く前に、原始の地球の元素が豊富な環境で生まれた。生物の大群は長い時間をかけて地球の様相を変え、生物圏を生み出した。生物圏は、生物と、生物によって形成されたり、変えられたりしたものすべてから成る地球の表面の薄い層を指す。
細胞はひたすら自分の複製をつくり続ける。ひとつの世代から次の世代へと続いていくこの営みには、まるで「目的意識」があるように感じられる。目的意識の出現というのは、あるいは錯覚かもしれない。だが、恒星や銀河、宇宙にはこうした特徴はない。ただ法則を受け入れて存在しているだけだ。しかし生物は、
3,400冊以上の要約が楽しめる