製品や事業にライフサイクルがある以上、本業が衰退してしまう現象は、どの時代にも、どの企業にも起こりうる。
本業衰退のきっかけは、フィルム業界のようにアナログからデジタルという技術の変化であったり、グローバル化であったり、規制緩和であったり、さまざまだ。たとえば自動車の自動運転が実現すれば、自動車業界にとどまらず保険業や物流業にも大きな影響を与えることが、容易に想像される。
本書の目的は、同じ業界に位置していた競合企業のうち、本業の転換に成功した企業と、変化に対応できず倒産・解体されてしまった企業の戦略を比較することによって、本業転換のポイントをあぶり出すことである。
具体例として取り上げられているのは、(1)富士フイルムとイーストマン・コダック、(2)ブラザー工業とシルバー精工、(3)日清紡とカネボウ、(4)JVCケンウッドと山水電気、という4つのペアだ。いずれにおいても、前者が成功した企業であり、後者が消失した企業である。
ブラザー工業は編機、タイプライターという2度の本業衰退に直面したが、粘りの戦略でこれを克服した。紡績を創業とする日清紡は、現在ではブレーキ、エレクトロニクスがコアとなっている。JVCケンウッドは高級チューナーから、無線機、オーディオ、カーナビと舵を切り続けた。
こうした企業の生き残り戦略を整理すると、本業に代わる事業として「どの事業を選ぶか(What)」と、「新事業の開始時期(When)」という2つの視点があることがわかる。本業に代わる新たな収益源として、自社の技術やノウハウを生かすことのできる分野を選定したこと(What)、本業から得られるキャッシュフローがまだ十分にあり、企業体力のある時期に新しい事業を開始したこと(When)が、存続企業の共通点だったのだ。
一方で衰退企業では、本業に代わる新たな事業として何をやるべきか、何をやるべきでないかという事業選択がうまくできていなかった。また戦略を実行に移す時期が遅すぎた。つまりWhatとWhenのいずれかにつまずいたか、もしくはその両方につまずいていた。
一般的には本業と関連の高い領域への転換のほうが、成功確率は高いと言われている。ただしその関連性を考えるうえでは、ふたつの注意点がある。それは「遠そうで近いもの」と、「近そうで遠いもの」があるということだ。
富士フイルムの化粧品・医薬品への進出、日清紡のブレーキへの進出は、リスクが高いと言われる非関連多角化である。しかし両事業は軌道に乗っている。これらは業種的に見ると非関連分野になるが、コア・テクノロジーは本業で培ったものを応用できるため、技術面での関連が高いと考えられる。一見すると遠そうだが、根っこは比較的近かったのである。
逆に関連した領域なのにうまくいかなかった例として、LCC(格安航空会社)の運営に手を染めた米国コンチネンタル航空、ジェネリック薬品の会社を設立し黒字化したものの、最終的には手放してしまったエーザイなどが挙げられる。領域としてはまさに隣合わせなのに、基幹のところが離れていたのである。
このように領域の関連性だけで、多角化の成否を論じることは難しい。そこには「評価尺度」と「体内時計」の違いがある。
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