著者である二人は、それぞれに本場ニューヨークでデザインを学びたいと考え、渡米した。そして、マンハッタンの中心に位置する美術大学、School of Visual Artsで入学初日に出会うことになる。大学で紹介されたインターンシップを通じて、著者らはともにMTVに就職。その後、アートディレクターとしてブランディング・エージェンシーへ転職し、様々な国の、ホテルなどのブランディングに携わった。フリーランスとしての仕事が増えたことをきっかけに独立の準備をはじめ、2008年にデザイン会社HI(NY)を設立した。
その後、2016年に日本支店を設立し、日本でのプロジェクトも増えていった。そこで「日本ではブランディングが正しく理解されていない」という課題が見えてきた。そして、それは日本と世界との「デザイン」の解釈の違いによって引き起こされているとわかった。HI(NY)は日本語でいうところの「デザイン事務所」として、「ブランディング」や「デザイン」の仕事をしてきた。著者らにとって「デザイン」とは、クライアントの課題点や強みを見極め、問題解決の方法を可視化して伝わるかたちに落とし込むことだ。しかし、日本では問題解決の部分は主に広告代理店のものだと考えられ、一般的なデザイン事務所では「見た目のいいものを作ること」が求められる。
一方、世界的な潮流として、その会社「らしさ」であるコアバリューに焦点をあて、その価値を全面に出すビジネスが増えている。また、消費者の社会への意識が高まっていることから、企業としてのビジョンやミッションを明確に公言することが求められる傾向にある。なんと、ミレニアル世代(1981年―1996年生まれ:2019年に23歳―38歳)の10人中9人が、商品やブランドのビジョンに共感できるか否かによって、購買するブランドを選ぶという。つまり、これからのビジネスにとっては、商品のつくり手側のメッセージを消費者が正しく理解し、共感できるように伝えることがとても重要なのだ。
前述のように、ビジネスの情緒的な価値が重視される時代においては、消費者との戦略的なコミュニケーションが欠かせない。コミュニケーションといっても言語的なものだけではなく、視覚的要素・聴覚的要素・嗅覚的要素・味覚的要素・身体的要素などといった、相手の五感で感じられるもの全てを含む。
では、そうしたコミュニケーションを効果的に行うために大切なことは何か。それは、商品や企業が発する全てのメッセージが矛盾なく同じ方向を目指し、それらの世界観が一貫していることである。
商品や企業が発するメッセージは、タッチポイントと呼ばれる消費者との接点から伝えられる。たとえば、パンフレットやロゴ、パッケージなどがそれにあたる。また、商品やそのつくり手をとりまく雰囲気や世界観は、Look and feel(ルックアンドフィール)と呼ばれる。消費者に商品を手にとってもらうためには、この世界観を商品以外の要素も含めて全てで表現できているかが重要だ。
時代や環境、顧客のニーズを考え、企業や商品やサービスのもつ「らしさ=個性」を戦略的に引き出し、その価値を全てのタッチポイントにおいて正しく演出し、効果的に伝わるかたちに落とし込むこと、それがブランディングである。
海外では、市場に重きをおくマーケティングではなく、
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