「追われる国」の経済学

ポスト・グローバリズムの処方箋
未読
「追われる国」の経済学
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「追われる国」の経済学
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2019年05月02日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

今、世界中でポピュリズムや保護主義が台頭し、世界平和の先行きに暗雲が立ち込めているように感じる。本書は、その理由は効果の上がらない金融政策にあると述べている。たしかに、日本をはじめとした先進国で導入されている量的緩和やマイナス金利が効果を上げているとは言いがたい。困窮した民衆が従来型の経済政策に見切りをつけ、ポピュリズムや保護主義に走るという著者の主張には説得力がある。

日本は、戦後最長の好景気の中にあるといわれている。しかし、そのことを実感している人はどれだけいるのだろうか。好景気の中にあるからといって、今の政府がおこなっている経済政策は正しいといえるのだろうか。消費税が増税されたばかりだが、それには意味があったのか。何が正しいのかが不確かな経済環境の中にあっても、知識を学び適切なリーダーを選ぶのは私たちひとりひとりの使命だ。誤った経済政策は、世界平和をも脅かす要因となる。

本書は、従来型の金融政策が有効に機能しない理由を見事に論述し、「追われる国」となった先進国がとるべき政策を丁寧に解説する良書である。「経済学の優れた書籍として、ピケティの『21世紀の資本』と並び称される存在になるだろう」との激賞の声も寄せられている。経済学に馴染みのない読者でも理解がしやすい平易な文章で書かれているため、ぜひとも挑戦していただきたい。たしかに経済学には、難しくとっつきにくい側面がある。しかし、一方で経済学は、私たちの生活に密接に関わる学問なのだ。

ライター画像
香川大輔

著者

リチャード・クー
野村総合研究所 主席研究員、チーフ エコノミスト
1954年神戸生まれ。
76年カリフォルニア大学バークレー校卒業。専攻は政治、経済。米国連邦準備制度理事会(FRB)のドクター・フェローを経て、81年ジョンズ・ホプキンス大学大学院経済学博士課程修了。同年ニューヨーク連銀入行後、84年野村総合研究所入社。経済調査部、 投資調査部等を経て、現職。日経金融新聞(95年、96年、97年)や日経公社債情報(98年、99年、2000年)のエコノミスト・ランキングで第1位。全米ビジネスエコノミスト 協会(NABA)アブラムソン賞受賞(2001年)。
公職等として、経済審議会専門委員、 小渕総理ものづくり懇談会委員、大蔵省金融審議会委員、早稲田大学客員教授、防衛研究所防衛戦略研究会議委員などを務めた。現在は米国Center for Strategic and International Studiesシニア・アドバイザーと、米国Institute for New Economic Thinkingアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。
著書に『良い円高 悪い円高』『投機の円安 実需の円高』『「陰」と「陽」の経済学』( 以上、東洋経済新報社)、『金融危機 からの脱出』『日本経済・回復への青写真』『良い財政赤字 悪い財政赤字』(以上、PHP研究所)、『日本経済 生か死かの選択』『デフレとバランスシート不況の経済学』『日本経済を襲う二つの波』『世界同時バランスシート不況』『バランスシート不況下の世界経済』(以上、徳間書店)、『Balance Sheet Recession』『The Holy Grail of Macroeconomics』『The Escape from Balance Sheet Recession and the QE Trap』『The Other Half of Macroeconomics and the Fate of Globalization』(以上、John Wiley & Sons)等がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ほとんどの先進国において現在の金融政策が有効に機能しないのは、民間部門が債務の最小化を優先しているためである。借り手は、損なわれたバランスシートを修復すべく借り入れを控えている。また、先進国の経済発展は新興国に「追われる」段階となっており、国内に魅力的な投資機会もない。
  • 要点
    2
    行き過ぎた金融政策は、将来的なインフレリスクが高い。被追国に求められる経済政策は、政府が最後の借り手を担う財政政策である。
  • 要点
    3
    金融政策に依存し、緊縮財政を迫られるEU各国ではポピュリズムが躍進している。貿易赤字が深刻化する米国でも、保護主義を掲げるトランプ政権が誕生した。

要約

マクロ経済が見落としていた局面

バランスシート不況とは
utah778/gettyimages

現在の先進諸国は、天文学的とも言うべき量的緩和や、ゼロあるいはマイナス金利といった金融政策が有効に機能せず、いまだに力強い回復を取り戻せていない。なぜ伝統的な金融政策は先進諸国で機能しないのだろうか。

マクロ経済学は、「民間部門はたえず利益の最大化を追求する」ということを前提としてきた。しかし、現実の経済には、少なくとももう一つの局面がある。それは、民間部門がいくつかの状況下において「債務の最小化を最優先する」局面である。

たとえば、バブル崩壊後の日本経済が長期停滞に陥ったのは、後者のように民間部門が「債務の最小化を最優先する」局面であったためと考えられる。たとえ、金利がゼロやマイナスになったとしても、民間部門はバランスシートの修復を優先するため借金をすることはない。よって、伝統的な金融政策が有効に機能しないという事態が起こる。著者はこの現象を「バランスシート不況」と名付け、これまでの著書でも考察してきた。

日本に続き、欧米の経済においても、2000年代に大規模な住宅バブルが弾けて、バランスシート不況に陥った。ほとんどすべての欧米先進国では、歴史的な低金利にもかかわらず民間部門は貯蓄を増やしたり、借金を返済したりしている。そうして、世界経済は大不況へ導かれていった。

借り手を委縮させる投資機会不足

「債務の最小化を優先する」局面が現れることには、少なくとも二つの原因がある。一つは、ここまで述べたような、経営ミスやバブルの崩壊によって損なわれたバランスシートを修復すべく、借り手が借り入れをできないからである。そしてもう一つは、借り手が国内で魅力的な投資機会を見つけられなくなったからである。多くの先進国は、現在この二つの困難を同時に抱えている。

後者の投資機会不足は、経済発展の段階によって異なる背景を持つ。そのため、それぞれに必要な経済政策も変わってくる。

経済発展の段階は、経済の工業化プロセスという視点で3つに整理するとわかりやすい。経済学でいう「ルイスの転換点(LTP)」、つまり、農村部の余剰労働者がすべて都市部の工場に吸収されたという時点を区切りにする。

「追われる」経済
FangXiaNuo/gettyimages

最初の段階は、LTP到達前の、工業化が発展する段階である。資本家は、安価な労働力を無尽蔵に獲得し、国内での資本を蓄積させ都市化が加速する。労働者は、低賃金、長時間労働を強いられる。

次の段階は、経済がLTPに到達した成熟経済である。この段階では、労働者は雇い主に対する交渉力を得て、労働ストライキなどを通じて賃金など労働環境の改善を要求する。上昇した労働者の賃金は、購買力の急激な拡大につながり、企業にとっては大きな投資機会になるため、経済成長の「黄金時代」を迎える。

三番目の段階が、

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要約公開日 2019.10.31
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