マネーの魔術史

支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのか
未読
マネーの魔術史
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支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのか
未読
マネーの魔術史
出版社
出版日
2019年05月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

現在の日本でとられている「異次元金融緩和」政策を、あなたはどれくらい理解しているだろうか。市場に資金が大量に供給されたと言われているが、実態として本当にそうなのか。そもそも、通貨供給量を増やすと経済に好影響を与えるという理屈は正しいのだろうか。

現在の金融の状況や抽象的なマネーについて理解するには、歴史を振り返ることが効果的だ。なぜなら、過去の事例については結果が出ているからだ。本書は、古代から現代までのマネーに関わる事件を取り上げることで、いま日本や世界で起こっている現象を解き明かすことに挑戦している。

本書を読めば、権力者たちが通貨供給量を増やす「金融緩和」にいかに魅せられてきたかがうかがい知れる。一番古い、紀元前4世紀のギリシャの事例では、なんと貨幣を国がすべて回収し、「1ドラクマ」を「2ドラクマ」に刻印しなおしたのだという。乱暴ともいえるマネーの魔術だが、その後徐々に複雑さが増してくる。その複雑さが、魔術のように人びとの生活や経済を操った。

失敗も多いのだが、「金融緩和」の歴史は繰り返されている。「金融緩和」がもたらす経済の熱狂は、それが一瞬で終わるとしても、権力者たちを魅了せずにはいられなかったのだろう。

難解と感じる方も多いかもしれないテーマだが、著者の説明は非常にわかりやすく、ウィットに富んでいる。現在と今後のマネーの動きを見る目を養うために、何度もお読みいただきたい良書である。

ライター画像
加藤智康

著者

野口 悠紀雄(のぐち ゆきお)
1940年東京生まれ。東京大学工学部卒業後、大蔵省入省。1972年エール大学Ph.D.取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授等を経て、現在、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『情報の経済理論』(日経・経済図書文化賞)、『財政危機の構造』(サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(吉野作造賞)、『「超」整理法』、『戦後日本経済史』、『数字は武器になる』、『世界史を創ったビジネスモデル』の他多数。近著に『ブロックチェーン革命』(大川出版賞)、『平成はなぜ失敗したのか』など。

本書の要点

  • 要点
    1
    マネーの歴史は、権力者による貨幣の品位を引き下げる策略と強く結びついている。貨幣価値が下がると物価が上昇し、インフレとなる。そして貨幣発行者は利益を得ることができる。
  • 要点
    2
    国の借金や莫大な戦費のやりくりをするために、国債を何か別の形に変える魔術に世界は魅せられていった。それは株式への交換だったり、中央銀行による買い取りだったりする。
  • 要点
    3
    中央銀行の紙幣が不兌換紙幣になってから、マネーの大量発行によっていかなることもできる時代になっている。日本の異次元金融緩和もそうである。しかし、仮想通貨の出現でマネーの歴史が動く可能性がある。

要約

マネーの魔術の始まり

「貨幣の品位切り下げ」という魔術

マネーの歴史は、権力者による貨幣の価値を引き下げる策略と強く結びついている。最も古い事例は、紀元前4世紀のギリシャに見られる。シラクサ王ディオニュシオスは借入額の膨らみを返済するために、1ドラクマ貨幣を人びとから回収し、2ドラクマの刻印をして返却した。つまり貨幣の総量を倍にしたのである。これが人類史上最初のマネーの魔術である。

当時のお金には銀が含まれていた。1ドラクマ貨幣を2ドラクマ貨幣にすると、1ドラクマあたりの銀含有量は半分になる。つまり、貨幣の品位は下がっている。しかし、この方法は機能した。それは、人々が貨幣を新しい刻印どおりのものとして受け取ったためだ。

インフレと借金返済
CoinUp/gettyimages

ディオニュソスの債務がドラクマで固定されているとする。そして、貨幣の総量を倍にした後、債務額を差し引いたぶんを市場に戻すとする。すると、経済の生産量は変わらないので、物価が上がり、インフレになる。

このことでディオニュソスは利益を得る。なぜなら、債務額がインフレ前に国民の小麦消費量1年分の価値があったとすれば、インフレ後は同じ額でもっと少ない量の小麦しか買えなくなっているからだ。シラクサ王はこの差のぶんの返済を逃れることになる。つまり、貨幣発行権を有するものは、貨幣発行によって利益を得ることができるのだ。

このような貨幣の改悪は、現代に至るまで、国が税以外の手段で財政収入を得る基本的な方法であり、これまでの歴史の中で何度でも起こった。そして、インフレが繰り返されたのである。

信用がマネーになった

高い製紙技術と印刷術があった中国では紙幣が早くから用いられており、やがて国が紙幣の独占的発行体になっていく。紙幣は便利であったが、製造コストが金属貨幣より遙かに低いため、増発されやすい欠点もあった。中国のどの王朝も、紙幣の発行量をコントロールできずに制御不能なインフレに陥った。この問題は今に続く紙幣の歴史につきまとい、満足のいく解決策は見つかっていない。

一方で、中世以降のヨーロッパで紙幣発行の主体となったのは、銀行だった。元々両替商から進化した銀行が、預かり証の代わりに紙幣を使うようになった。

銀行は貸し付けを行うことで、現代にも続く最大の魔術を行っている。他人に「貸してあげる」として貸付債権を設定し、その金額を預金していますという「預かり証」を渡す。このように、実際のお金がなくても、貸し出しと預金を同時に作っているのである。たとえば、Aから預かり証を受け取ったBが金貨を引き出したいという場合、Aへの貸付を金貨で返済してもらって、それをBに渡せばいい。これができるのは、人々が、払い戻しを銀行に求めれば応じてくれると信用するからだ。銀行を素晴らしい商売にしているのは人々の信用なのである。

「金融緩和」に魅せられていく世界

ニュートンも惑わされた「南海バブル事件」
KrisCole/gettyimages

イギリスにおける「南海バブル事件」は歴史に残るバブル事件である。わずか半年で国策会社「南海会社」の株価が10倍にもなった。

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要約公開日 2019.10.21
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