日本の経済成長が停滞した最大の原因は、デフレ(デフレーション)にある。デフレとは一定期間にわたり物価が下落し続ける現象を指し、経済全体の需要が供給を下回ることで引き起こされる。需要とは消費と投資から成る。モノが売れなければ企業は赤字になり、労働者の賃金は下がる。すると買い控えによって消費が抑制され、企業は投資を差し控えるようになり、需要がさらに縮小する。この負のスパイラルがデフレを長期化させる。
別の見方をすると、デフレとはお金の価値が上がっていく現象だ。そのため人はモノよりカネを欲しがるようになり、個人では消費より貯金、企業なら投資より内部留保が増える。銀行の融資は借りたときより返すときのほうが、実質的に金額は膨らむ。そのため融資を必要とする大型投資などは行われなくなる。デフレになると経済成長が止まってしまうのは、こうしたワケがある。
デフレが経済成長の阻害要因になるのであれば、逆にインフレになれば万事解決するかというと、一概にそうとは限らない。需要の増大が招くインフレはよいが、そうでないインフレはむしろ景気を悪化させるからだ。
たとえば1970年代の石油ショックがそうである。原油を生産する企業が国内にほとんどなかったため、輸入原油の価格上昇は企業や消費者の家計を圧迫しただけで、国内企業の儲けにつながらなかった。これではインフレが起きたとしても、景気悪化の方向にしか働かない。
「需要不足/供給過剰」のデフレから脱却するには「需要」、すなわち消費と投資を拡大する必要がある。しかしデフレで賃金が低下しているにもかかわらず、消費を増やす人はいないだろうし、設備投資を拡大する企業もないだろう。それが経済合理的な行動というものだ。しかしそれが結果的に需要をますます縮小させ、景気悪化をもたらすのも事実である。このように個々としては正しい行動でも、全体として好ましくない結果がもたらされることを、経済学用語で「合成の誤謬」という。
政府が経済政策を行う意義はここにある。ミクロレベルで調節できないことを、マクロレベルで調節して「合成の誤謬」を回避する。それが政府の役割だ。それができていないのは、ひとえに政府の経済運営の失策にあると言える。
デフレは「需要不足/供給過剰」の状態なので、需要を拡大して供給を抑制することがデフレ対策になる。
需要を拡大するには、公共投資などの財政支出を拡大し、政府みずから需要を増やして「大きな政府」にしたり、減税で消費や投資の増大を図ったりすることが肝要だ。金融政策面では、金融緩和を実施することで、個人や企業が融資を受けやすくする。また供給を抑制するため、企業間競争を抑制して、生産性向上に歯止めをかける。供給力強化となるグローバル化は制限すべきだし、国内市場の保護も供給過剰を抑制するデフレ対策として有効である。
だが平成不況の下、実際に実施された「構造改革」はどのようなものだったか。
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