物理学の世界では、この世界に存在している全てのものを説明できる「万物の理論」がとうとう完成するかもしれないといわれている。そもそも万物の理論とは何を意味するのだろうか。
本書で紹介する「統合的ヴィジョン」とは、物理的宇宙だけではなく、情動的領域、心的領域、精神的・霊的領域全体を含めた「コスモス」全体を、自己、文化、自然の全ての領域から包含しようとする試みである。統合的ヴィジョンは、私たちの仕事や生活、運命そのものを、より全体的で、もっと断片的でないものへの変化へといざなうだろう。
人類は、孤立した部族や氏族から始まり、古代国家や帝国へ、そして地球共同体へと歩みを進めてきた。その歩みの先に、統合的共同体が現れることは、もはや必然のように思える。意識変化の最先端は、来たるべき統合的時代の一歩手前にまで到達している。私たち人類は遅かれ早かれ、全てを説明する万物の理論を手にすることになるだろう。
「統合的(インテグラル)」という言葉の意味は、さまざまなものを画一化してしまうということではない。豊かな差異と一緒に見出される、さまざまな共通性を大切にするという意味だ。そして、多様性の中にある統一性を尊重するということでもある。人類だけでなく、宇宙全体に差異と共通性を見出し、芸術、倫理、科学、宗教のそれぞれに正当な居場所を与えていく。これこそが、統括的な見方から導かれる「万物の理論」である。
現代の発達心理学でつくり上げられてきた発達モデルは、一貫性のある一つのストーリーを提示している。それは、心の成長や発達とは、一連の段階が次々と開き出されていくということだ。たとえば「スパイラル・ダイナミクス」という理論を見てみよう。このモデルでは、人間の意識が網目細工のように、あるいはダイナミックな螺旋のように展開していく様子が提示されている。
発達の螺旋は、それぞれ色で表現された八つの段階に分類される。はじめの六つは「第一層の思考」とされる「生存の段階」と呼ばれる。
一つ目は「ベージュ」だ。基本的な生存活動の段階を表している。明確な自己をほとんど持たず、すべてを生き残るために集中させる段階である。
二つ目は「パープル」。呪術的・アニミズム的思考に満たされ、部族集団を形成する。信仰や血縁を重視し、第三世界の国々、ギャング集団、部族型の企業などに見られる。
三つ目は「レッド」。部族集団と区別された「自己」が初めて出現する。封建帝国の段階にあり、具体例として、反抗的な若者や叙事詩に登場する英雄などが挙げられる。
四つ目の「ブルー」は、行動規範の全てが絶対的存在や絶対的秩序によって決められると考える段階である。宗教的、神話的な慣習に従う集団に見出される。
五つ目は「オレンジ」。個人として真理や意味を探し求めるようになり、「科学的」な方法を重視する。法人型国家の基礎といえる段階だ。人間社会の出来事も科学の諸法則で規定されていると考える。具体例としては、啓蒙時代のさまざまな思想や中流階級が挙げられる。
六つ目は「グリーン」である。人間らしい絆を重視して、合理性ではなく気持ちや気遣い、大地、ガイア、生命を大切にする。階層型組織に対して横方向のつながりを形成する、共同体主義的な段階である。ポストモダニズム、ポリティカル・コレクトネス、ダイバーシティ推進運動などが、「グリーン」の具体例といえる。
これら六つから成る第一層の段階にある人は、自らの世界観こそが唯一正しい最善の見方だと捉える。そして、外部からその世界観に疑いをかけられると激しく反発する。だが、第二層へと飛躍することで、意識に途方もなく大きな変化が起こる。これにより、垂直的な思考と水平的な思考の両方が可能となるのだ。
第二層の意識は、一歩下がって全体を見渡し、大きな地図を認識しようとする。そして、全ての段階にはそれぞれ求められている役割があると捉え、バラバラになっている種々のシステムをホリスティックで統合的なものへとまとめ上げようとする。グリーンから第二層への飛躍は、相対主義的な見方から全体的な見方へ、あるいは多元的な見方から統合的な見方への移行となる。
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