企業のケイパビリティ(能力)には次の2種類がある。それは、「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と「ダイナミック・ケイパビリティ(変化対応的な自己変革能力)」だ。
前者は、企業内の資産や資源をより効率的に扱う能力である。ビジネス環境が安定しているときに、利益最大化という目標を達成するうえで効果を発揮する。
それに対し、後者の「ダイナミック・ケイパビリティ」は、現在のように、不確実性が高く、変化の激しい状況で求められる能力である。あえて日本語に訳せば「変化対応的な自己変革能力」となる。スタンフォード大学教授オライリーの提唱する「両利きの経営」の言葉を借りれば、「知の探索」を担うのがダイナミック・ケイパビリティであり、「知の深化」を担うのがオーディナリー・ケイパビリティである。
そして、このダイナミック・ケイパビリティこそが、成功する日本企業の「共通の本質」なのである。
ダイナミック・ケイパビリティは、経営陣が保有すべき3つの能力カテゴリーに区別される。
1つめは感知(センシング)。事業が直面する変化、機会や脅威を感知する能力である。
2つめは捕捉(シージング)。機会を捕捉し、脅威をかわすように、必要に応じて既存の事業や資源や知識を大胆に再構成し、再配置して、再利用する能力だ。
そして3つめは変容(トランスフォーミング)。持続的な競争優位を維持するために、オーケストラの指揮者のように企業内外の資産や知識をオーケストレーションし、ビジネスエコシステムを形成する能力である。
ここでいう脅威とは、技術、消費者行動、政府の規制における潜在的変化をさす。
ダイナミック・ケイパビリティの効果の1つは、捕捉(シージング)によって「既存技術の転用を可能にする」ことである。その例として、デジタル・カメラの急速な発展によって、本業が危機にさらされた富士フイルムを挙げる。
同社は、来るべき環境の変化をいち早く感知し、既存のフィルム技術を再利用して、液晶の保護フィルムの開発に成功した。また既存のコラーゲン技術も再利用して、化粧品・医療品業界への参入にも成功。倒産の危機を脱した。自己変革を通して環境へ適応する能力、すなわちダイナミック・ケイパビリティを発揮したのだ。
これに対して、同じ危機的状況に置かれていた米国のコダックはどうか。同社は、あくまでも株主利益を最大化するために、徹底的に生産コストを削減した。しかも、株価の下落を抑制するために、大量の内部資金を使って自社株を購入した。しかし結局のところ、通常能力による効率化によって難局を乗り切ろうとしたコダックは、環境の変化に対応できずに倒産してしまったのである。
2つめの例は、変容(トランスフォーミング)によって独自のビジネス・エコシステムを構築した、ソニーのゲーム機プレイステーションである。
1994年、プレイステーションでゲーム業界に参入。当時のゲーム界の巨人は任天堂である。以後2社は、機能と価格で競争を繰り広げた。決定的な違いは、ソフト会社との関係だった。任天堂は、ソフト会社に厳しい契約を突きつけ、様々な制約を課した。いってみればソフト会社のうえに君臨したのである。また、ハードの情報を公開しなかったのも、同社に致命的な打撃を与えることとなった。
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