成功する日本企業には「共通の本質」がある

ダイナミック・ケイパビリティの経営学
未読
成功する日本企業には「共通の本質」がある
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ダイナミック・ケイパビリティの経営学
未読
成功する日本企業には「共通の本質」がある
出版社
朝日新聞出版

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出版日
2019年03月30日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

誠実なモノづくりを誇りにしてきたはずの日本の製造業で、ここ最近、不祥事が相次いで明らかになっている。特に現場における「データ改ざん」が常態化していたケースは、多くの人に衝撃を与えた。なぜ日本企業はこのような事態に陥ったのだろうか? そうした疑問を抱いた方も少なくないだろう。

著者の見立ては明快だ。問題の根は、1990年代以降に始まった、米国流の経営パラダイムの導入にあるという。米国流の株主主権論にもとづく市場ベースの経営と、日本の伝統的な組織ベースの生産システムとの間にミスマッチが生じ、それが限界に達したことで不祥事を生み出したのである。

このミスマッチを解消し、不祥事をなくすためには、日本企業は株主主権論にもとづく米国流の経営を放棄し、日本企業の古層に眠るダイナミック・ケイパビリティの経営へと回帰すべきだ。それが著者の提言である。それは、ビジネスの目標を、利益から売上・収益・シェアへとシフトさせることでもある。

それでは、「ダイナミック・ケイパビリティ」とは何か。それはどのような競争優位性をもたらすのか。そして、それを獲得するにはどうしたらよいのか。その解を提示していくのが本書である。本書からダイナミック・ケイパビリティ論の要諦を学び、実務に取り入れてみてはいかがだろうか。

ライター画像
しいたに

著者

菊澤 研宗(きくざわ けんしゅう)
慶應義塾大学商学部・商学研究科教授。
1957年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、同大学大学院商学研究科博士課程修了後、防衛大学校教授・中央大学教授などを経て、2006年慶應義塾大学教授。この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。元経営哲学学会会長、現在、日本経営学会理事、経営行動研究会理事、経営哲学学会理事。『戦略の不条理-なぜ合理的な行動は失敗するのか』(光文社新書、2009年)、『組織の不条理-日本軍の失敗に学ぶ』(中公文庫、2017年)、『改革の不条理-日本の組織ではなぜ改悪がはびこるのか』(朝日文庫、2018)など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    成功する日本企業は共通して「ダイナミック・ケイパビリティ」を持つ。それは、環境の変化を感知し、既存の知識、資産、人財、能力を再編成する「変化対応的な自己変革能力」である。
  • 要点
    2
    日本企業はダイナミック・ケイパビリティを駆使すべきだ。利益のためにコストを削減するのではなく、人件費や減価償却費といった付加価値に積極的に投資をし、イノベーションをめざす経営に舵を切る必要がある。それは、米国流の市場ベースの経営から、日本流の組織ベースの経営への回帰を意味する。

要約

ダイナミック・ケイパビリティ

2つの能力
Urupong/gettyimages

企業のケイパビリティ(能力)には次の2種類がある。それは、「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と「ダイナミック・ケイパビリティ(変化対応的な自己変革能力)」だ。

前者は、企業内の資産や資源をより効率的に扱う能力である。ビジネス環境が安定しているときに、利益最大化という目標を達成するうえで効果を発揮する。

それに対し、後者の「ダイナミック・ケイパビリティ」は、現在のように、不確実性が高く、変化の激しい状況で求められる能力である。あえて日本語に訳せば「変化対応的な自己変革能力」となる。スタンフォード大学教授オライリーの提唱する「両利きの経営」の言葉を借りれば、「知の探索」を担うのがダイナミック・ケイパビリティであり、「知の深化」を担うのがオーディナリー・ケイパビリティである。

そして、このダイナミック・ケイパビリティこそが、成功する日本企業の「共通の本質」なのである。

感知・捕捉・変容

ダイナミック・ケイパビリティは、経営陣が保有すべき3つの能力カテゴリーに区別される。

1つめは感知(センシング)。事業が直面する変化、機会や脅威を感知する能力である。

2つめは捕捉(シージング)。機会を捕捉し、脅威をかわすように、必要に応じて既存の事業や資源や知識を大胆に再構成し、再配置して、再利用する能力だ。

そして3つめは変容(トランスフォーミング)。持続的な競争優位を維持するために、オーケストラの指揮者のように企業内外の資産や知識をオーケストレーションし、ビジネスエコシステムを形成する能力である。

ここでいう脅威とは、技術、消費者行動、政府の規制における潜在的変化をさす。

日本企業の本質

既存技術の転用

ダイナミック・ケイパビリティの効果の1つは、捕捉(シージング)によって「既存技術の転用を可能にする」ことである。その例として、デジタル・カメラの急速な発展によって、本業が危機にさらされた富士フイルムを挙げる。

同社は、来るべき環境の変化をいち早く感知し、既存のフィルム技術を再利用して、液晶の保護フィルムの開発に成功した。また既存のコラーゲン技術も再利用して、化粧品・医療品業界への参入にも成功。倒産の危機を脱した。自己変革を通して環境へ適応する能力、すなわちダイナミック・ケイパビリティを発揮したのだ。

これに対して、同じ危機的状況に置かれていた米国のコダックはどうか。同社は、あくまでも株主利益を最大化するために、徹底的に生産コストを削減した。しかも、株価の下落を抑制するために、大量の内部資金を使って自社株を購入した。しかし結局のところ、通常能力による効率化によって難局を乗り切ろうとしたコダックは、環境の変化に対応できずに倒産してしまったのである。

独自のエコシステム
Deagreez/gettyimages

2つめの例は、変容(トランスフォーミング)によって独自のビジネス・エコシステムを構築した、ソニーのゲーム機プレイステーションである。

1994年、プレイステーションでゲーム業界に参入。当時のゲーム界の巨人は任天堂である。以後2社は、機能と価格で競争を繰り広げた。決定的な違いは、ソフト会社との関係だった。任天堂は、ソフト会社に厳しい契約を突きつけ、様々な制約を課した。いってみればソフト会社のうえに君臨したのである。また、ハードの情報を公開しなかったのも、同社に致命的な打撃を与えることとなった。

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要約公開日 2019.10.29
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