2014年6月12日、イスラエル人の少年3人が、ハマスの戦闘員に誘拐され殺害された。イスラエルが報復としてハマスの関係者を逮捕すると、ハマスは応戦する形でイスラエル南部に地対地ロケットを撃ち込み、数発が着弾。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は7月8日、ハマスに対抗するためにガザ侵攻を決断する。空爆を行い、7月17日には地上部隊がガザ地区に侵攻した。
だがガザ地区に住む16歳のパレスチナ人少女ファラ・ベイカーは、西洋諸国のメディアがイスラエルを被害者のように見せる偏向報道をしていると確信していた。真実を伝えるべくファラは、市民ジャーナリストとして空爆にさらされる毎日の生活のナラティブ(語り)を、ツイッター上で英語を用いて発信することにした。イスラエルの破壊の実態を世界に伝えて国際社会の非難を喚起し、イスラエルの軍事行動を封じ込めるためだ。当初はあまり反響がなかったが、空爆の激化や死傷者の増加にともない、フォロワー数が800から20万に増えるまで、わずか数週間しかかからなかった。
7月21日、ファラは自分の写真とともに、こうツイートした。「わたしはファラ・ベイカー。ガザ地区に住む16歳の少女です。生まれてから、3度の戦争を生き抜いてきました。もうたくさんです。#SaveGaza」
7月28日にファラの家の近くで激しい空爆が起きたことで、ファラのツイートは世界中から注目を浴びた。
ファラは「家の近くで激しい空爆が続いてる。今回の戦争がはじまって以来、最悪の夜。いまのうちに言っておくと、今夜、わたしはいつ死んでもおかしくない。#Gaza」とツイート。これには1362回のリツイートがあった。さらに照明弾の写真とともに、「これは家のすぐ近く。涙が止まらない。今夜、わたしは死んじゃうかもしれない。#GazaUnderAttack #ICC4Irael #AJAGAZA」とツイートすると、1万5547回のリツイートがされた。ファラの「恐怖感情の吐露」というナラティブは、世界中の人々の心を打ったのだ。
世界中から共感のツイートが、ファラのもとに殺到した。その中には海外ジャーナリストもいた。「世界は君の味方だ@Farah_Gazan。子どもを大量虐殺するイスラエルを、これほど侮蔑したことはない。#FreeGaza」――7万9400人のフォロワーを持つウィル・ブラックのツイートだ。多数のフォロワーを持つユーザーの共感を得たファラのツイートは、さらに拡散していった。
さらに海外メディアも、ファラのツイートを取り上げ始めた。英国のタブロイド紙《デイリー・ミラー》が「16歳のパレスチナ人少女、ガザへのミサイル攻撃を自宅からライブツイート」と報じた記事は、主にファラのツイートで構成されていた。この記事を数百万人の読者が読んだ。他の主要メディアもファラを取り上げ、ファラをジャーナリスト同然に扱った。
ガザ侵攻においてファラのツイートは、イスラエルの軍事的目標には大した影響をもたらさなかったかもしれない。しかしそれでもイスラエルは、ファラのツイートや国際社会の抗議デモを深刻に捉えた。
ファラは「ホモ・デジタリス」の典型だと言える。
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