140字の戦争

SNSが戦場を変えた
未読
140字の戦争
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SNSが戦場を変えた
未読
140字の戦争
出版社
出版日
2019年05月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

SNSが戦争に与える影響力の大きさは、私たちの想像以上だ。

たとえば本書は2014年のウクライナ内戦において、ロシアがSNS上でどのように情報工作をしたのかを取り上げている。またイスラエルのガザ侵攻において、パレスチナ人少女がツイッターを使いこなし、イスラエルに対する国際的な非難を巻き起こした事例についての言及もある。こうした事例が意味するのは、SNSが戦争において、大きな影響力を持つようになったということだ。

しかしそれ以上に興味深いのは、SNSが報道のあり方に変化をもたらしたことである。2014年7月17日に起きた、マレーシア航空17便撃墜事件を覚えているだろうか。ロシア政府はこれを「ウクライナの仕業」と発表したが、それは嘘であると暴露したのは民間人たちだった。彼らはSNSに投稿された大量の情報の真偽を入念に確かめることで、従来のジャーナリストや調査機関にはできなかったことを成し遂げたのである。

SNSによって戦争のやり方や報道に変化が生じている――そのことを本書は鮮やかに描き出している。そしてそれこそが、本書最大の価値だと要約者は考える。戦争に興味がなくても、広告・メディア関連業務に就いている人であれば必読の書だ。

著者

デイヴィッド・パトリカラコス(David Patrikarakos)
中東を専門に取材するジャーナリスト。《デイリー・ビースト》のコントリビューティング・エディター、《ポリティコ》のコントリビューティング・ライター。《ニューヨーク・タイムズ》紙、《フィナンシャル・タイムズ》紙、《ウォール・ストリート・ジャーナル》紙などに寄稿。2012年の著書Nuclear Iranは《ニューヨーク・タイムズ》紙のエディターズ・チョイスに輝くなど高い評価を得た。ロンドン在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    ガザ地区のパレスチナ人少女ファラ・ベイカーは、ツイッターでイスラエルによるガザ侵攻を実況。空爆の恐怖を吐露し、世界中から共感を集めることで、国際社会におけるイスラエルの立場を危ういものにした。
  • 要点
    2
    ウクライナ内戦が勃発すると、ロシア政府や軍についてポジティブに描く一方で、ウクライナ政府や軍についてネガティブに書く偽記事が大量に拡散された。それらはロシア政府が主導したプロパガンダだった。
  • 要点
    3
    英国人のエリオット・ヒギンズは、2014年7月17日に起きたマレーシア航空17便撃墜の際に使用されたミサイルの提供元がロシアであることを、SNSなどのオープンソースの情報を用いて、いち早く証明してみせた。

要約

市民ジャーナリスト

ツイッターを活用する
Racide/gettyimages

2014年6月12日、イスラエル人の少年3人が、ハマスの戦闘員に誘拐され殺害された。イスラエルが報復としてハマスの関係者を逮捕すると、ハマスは応戦する形でイスラエル南部に地対地ロケットを撃ち込み、数発が着弾。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は7月8日、ハマスに対抗するためにガザ侵攻を決断する。空爆を行い、7月17日には地上部隊がガザ地区に侵攻した。

だがガザ地区に住む16歳のパレスチナ人少女ファラ・ベイカーは、西洋諸国のメディアがイスラエルを被害者のように見せる偏向報道をしていると確信していた。真実を伝えるべくファラは、市民ジャーナリストとして空爆にさらされる毎日の生活のナラティブ(語り)を、ツイッター上で英語を用いて発信することにした。イスラエルの破壊の実態を世界に伝えて国際社会の非難を喚起し、イスラエルの軍事行動を封じ込めるためだ。当初はあまり反響がなかったが、空爆の激化や死傷者の増加にともない、フォロワー数が800から20万に増えるまで、わずか数週間しかかからなかった。

7月21日、ファラは自分の写真とともに、こうツイートした。「わたしはファラ・ベイカー。ガザ地区に住む16歳の少女です。生まれてから、3度の戦争を生き抜いてきました。もうたくさんです。#SaveGaza」

「ホモ・デジタリス」
CAEccles/gettyimages

7月28日にファラの家の近くで激しい空爆が起きたことで、ファラのツイートは世界中から注目を浴びた。

ファラは「家の近くで激しい空爆が続いてる。今回の戦争がはじまって以来、最悪の夜。いまのうちに言っておくと、今夜、わたしはいつ死んでもおかしくない。#Gaza」とツイート。これには1362回のリツイートがあった。さらに照明弾の写真とともに、「これは家のすぐ近く。涙が止まらない。今夜、わたしは死んじゃうかもしれない。#GazaUnderAttack #ICC4Irael #AJAGAZA」とツイートすると、1万5547回のリツイートがされた。ファラの「恐怖感情の吐露」というナラティブは、世界中の人々の心を打ったのだ。

世界中から共感のツイートが、ファラのもとに殺到した。その中には海外ジャーナリストもいた。「世界は君の味方だ@Farah_Gazan。子どもを大量虐殺するイスラエルを、これほど侮蔑したことはない。#FreeGaza」――7万9400人のフォロワーを持つウィル・ブラックのツイートだ。多数のフォロワーを持つユーザーの共感を得たファラのツイートは、さらに拡散していった。

さらに海外メディアも、ファラのツイートを取り上げ始めた。英国のタブロイド紙《デイリー・ミラー》が「16歳のパレスチナ人少女、ガザへのミサイル攻撃を自宅からライブツイート」と報じた記事は、主にファラのツイートで構成されていた。この記事を数百万人の読者が読んだ。他の主要メディアもファラを取り上げ、ファラをジャーナリスト同然に扱った。

ガザ侵攻においてファラのツイートは、イスラエルの軍事的目標には大した影響をもたらさなかったかもしれない。しかしそれでもイスラエルは、ファラのツイートや国際社会の抗議デモを深刻に捉えた。

ファラは「ホモ・デジタリス」の典型だと言える。

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要約公開日 2019.10.20
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