地球の土について語る前に宇宙の土に目を向けてみよう。実は月や火星には土がない。
月面着陸を成し遂げたアームストロング船長が踏みしめたものは、専門家が定義する「土壌」とは異なるものである。「土壌」とは、岩が分解されたものと死んだ動植物が混ざったものを指す。つまり、動植物の存在を確認できない月や火星には土壌はないといえる。
ある仮説によると、地球と月はもとは一つの惑星だった。それが隕石の衝突により分裂した(ジャイアント・インパクト仮説)。ほぼ同じ材料でできている地球と月の運命を分けたのは、水と大気だった。地球では、岩石が水と酸素、多様な生物の働きによって分解される。このような「風化」によって、粘土が生まれて土の一部となった。地球の土壌と月の砂を分かつのが、この粘土の存在である。
火星は粘土が存在する点において地球の土に近いといえる。現在の火星の表面は凍っているが、かつて水や酸素が存在したため粘土が存在する。地球の土にあって火星の土にないものとは、腐植である。腐植とは、生物遺体が分解されて腐葉土となり、さらに変質したものである。その化学構造は複雑で、現代の高度な科学技術をもってしても解明できていない。土の中にうごめく無数の微生物にしか作れない驚異の物質なのである。
では、地球上の土がすべて土壌と呼べるものかというとそうでもない。西之島のように火山が噴火してできたばかりの島には土壌は存在しない。植物が育って枯れ、生物遺体が分解されて腐植となり、火山灰や岩の風化によって粘土が生まれる。そうしてそれら腐植と粘土をミミズが混ぜて食べ、ミミズの腸内の粘液によって土壌粒子がくっつき、ころころした塊となって排出される。地球の土壌はこうして生まれている。
不思議に思ったことはないだろうか。万有引力の法則に従うなら、植物に水をやってもすべて流れ落ちてしまうはずである。そうならないのは、そこに粘土の力が働いているからだ。
例えば、コップにストローを差し込むと、細いストローの中だけ水面が高くなる。これを毛細管現象といい、ストローの半径が小さいほど、持ち上げられる水面は高くなる。土の中では、土の粒子間にある無数の隙間が極細ストローの役目を果たすため、重力に逆らって水が保持される。粘土が多い土ほど極細ストローが多くなり、保水力が大きくなる仕組みだ。
一方、乾いた土に水をまいても水がなかなか浸み込まないこともある。これは乾燥した腐植が優れた撥水機能を持つためだ。だが、腐植はひとたび水となじんでしまえばスポンジのように水を吸収する性質もある。
さらに、粘土を多く含む土はより多くの養分を保持する力も持っている。例えば、青色の色水を粘土の多い土に注いでみると、ろ過されて透明な水が排出される。これは粘土粒子が持つマイナス電気に、プラス電気を持つ青色色素イオンが吸着するからだ。植物の栄養分となるカルシウムやマグネシウム、カリウムなども水の中でプラス電気を帯びたイオンとなって粘土粒子に吸着するため、粘土が多いほど養分も多く保持できる。
つまり、腐植と粘土を多く含む土は、保水力が高く、栄養分の多い、「肥沃な土」といえるのだ。
世界の土は、大まかに分類すると色や状態によって12種類に分けられる。その中に、21世紀には100億人に達するという地球上の人口を養えるだけの肥沃な土はあるのだろうか。著者は自分の目で見て探し出すべく、12種類の土をめぐる旅に出ることにした。
まず著者が長靴とスコップを片手に向かった先は、
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