近年、AppleMusicなどの音楽配信サービス、GmailやGoogleドライブ、さらには会計ソフトウェアや勤怠管理システムなど、ありとあらゆるものがSaaSとして提供されるようになった。SaaSはSoftware as a Serviceの略で、ソフトウェアをクラウドの形態でサービスとして提供するもののことを言う。
SaaSは、ビジネスモデルに大きな変化をもたらした。従来、IT事業者はソフトウェアをパッケージ販売するのが主流であった。ひとたびパッケージソフトを販売すると、保守サービスを通じてしかユーザー接点が持てない。販売後に得られる収益も保守サービス費とユーザー数が増えた場合の追加ライセンス料金のみとなる。ソフトウェアが使われ続けても、ユーザーが新しいバージョンにアップグレードしない限りは収入にはならなかった。
ところがSaaSでは、ビジネスはサブスクリプション型となる。このビジネスモデルでは、購入された直後の収益は少ない。だが、継続して利用されることで利益が上がる仕組みだ。
また技術面においても、Webを通じて常にユーザーの利用状況を把握でき、プロダクトをスピーディーに改善できるようになった。その一方で、利用状況に基づいて改善しなければすぐに解約されてしまう。
ソフトウェア・ファーストとは、IT(とそれを構成するソフトウェア)活用をベースに事業やプロダクト開発を進めていく考え方である。ソフトウェアは一つの手段でありながら、既存の産業構造や製品・サービスのあり方を根底から覆すような破壊力を持っているのだ。
Web黎明期にブラウザを開発したことで有名なネットスケープ創業者のマーク・アンドリーセン氏は、2011年、「Why Software is Eating the World」というレポートを発表した。レポートで彼は、映画業界から農業、国防までさまざまな業界がソフトウェア企業によってディスラプト(破壊)されていると指摘。いずれすべての企業がテクノロジー企業になっていくと予測した。
それから8年が経ち、彼の予測通り、凄まじい破壊力を持つソフトウェアが企業の競争力を左右するまでになっている。一方、ソフトウェアだけで解決できない領域も明らかになりつつある。
ソフトウェア・ファーストにおいては、ソフトウェアの特徴や可能性、限界を理解してプロダクト開発や事業開発に活用していく姿勢が重要だ。また、ソフトウェア技術を理解して事業に活用できる人材と、そうした人材が活躍できる組織体制も欠かせない。
戦後、日本を世界屈指の経済大国としたのは、製造業を中心とした輸出産業である。70年代までは繊維や鉄鋼業、80年代以降は自動車、家電、半導体、スーパーコンピューターなどのハイテク製品が輸出された。
日本企業は半導体市場において、自社製の半導体を開発するだけでなく、それらを用いて汎用機からパーソナルコンピューターまでさまざまなタイプのコンピューター製品を安価に製造していた。そんなことが可能だったのは、世界最高レベルの技術力を持っていたからだと言えるだろう。
しかし90年代に入ると、状況は徐々に変わっていく。
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