まず理解するべき概念が「Trapped Value(潜在的収益価値:本来手にしていてもおかしくない潜在的な収益価値)」だ。これは新しいテクノロジーが提供する可能性のある、潜在的なベネフィットを指す。テクノロジーは次々と進化し、この潜在的な価値を膨らませていく。だがリアルのビジネスが、かならずしもその進化に追随するわけではない。多くのケースでそこにギャップが生じ、それがどんどん広がっていく。これが潜在的収益価値の「ギャップ」である。
たとえば組織内の情報共有ツールであるグループウェアを導入すれば、オフィスの効率は格段に向上する。しかし古参社員の理解が得られず、なかなか導入が進まない。ここに、導入すれば達成されるはずの効率化が、獲得されない潜在的なベネフィットとして膨らんでくる。これがギャップのある状態であり、これを解放することができれば、その企業は大きなベネフィットを手にすることができる。
潜在的収益価値は、「自社内に内在する価値(企業)」、「自社に関連する産業に内在する価値(業界)」、「消費者に内在する価値(消費者)」、「自社が帰属する社会に内在する価値(社会)」の4つに分けられる。
企業のレベルだと、先程のグループウェアの例のように、後ろ向きの組織風土や競合他社に比べて遅れているITシステム、官僚制や時代遅れのプロセスといった形を取る非効率性が、この潜在的な価値を膨らませている。
業界の場合、電気自動車の充電ステーションなど、共有インフラに関する協力や必要な投資が欠けているのが、潜在的な価値に当たる。
消費者においては、貧弱な顧客サービス、高い価格、少ない選択肢が放置されているようなケースが該当する。アマゾンは、テクノロジーの進化によって消費者が手にしてもおかしくなかった利便性を、既存の小売にかわって解放した。
社会を見ると、きれいな水、信頼できるエネルギー、通信など、人間の基本的なニーズにアクセスできていない人々が少なくない。そのような人々の生活環境を改善し、その過程で莫大な収益を生み出すことができるテクノロジーは存在する。しかしそのような広大な市場に焦点を当てている企業はほとんどない。
アップルが音楽や携帯電話の市場で実現したこと、アマゾンが小売業で変革したことは、この潜在的収益価値の解放である。どちらも既存の企業ではできなかったように、価値の解放には新興企業のほうが有利に見える。こうした一夜にして変わるような市場破壊を「ビッグバン型創造的破壊」と呼ぶ。
一方でエネルギー、金融、材料などの資産集約型の業界で、より大規模で、より目立たない形でゆっくりと進む創造的破壊もある。それが「圧縮型創造的破壊」だ。こうした業界では、その症状は利益率の低下として表れ、それが本格的に始まると元に戻ることはできない。じつは2014年にアクセンチュアが直面していたのも、この圧縮型創造的破壊だった。
問題は、創造的破壊が徐々に進行している間に、潜在的収益価値のギャップがじわじわと広がっていくことである。
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