新規事業という言葉には、わくわくするような響きがある。一方で実際の現場では、ネガティブな発言であふれていることも少なくない。担当者や幹部社員、経営層までもが、「できない理由」を口にしていることもザラにある。
あらゆる事業開発は、人間の「心」が介在する。そのためプロジェクトの現場がネガティブな空気に覆われているようでは、ワクワクするアイデアが生まれることはない。新規事業を成功させるためには、関係者のすべてが前向きな気持ちや感謝の心を持ち、「温度ある経済の環」をつくる必要がある。
ここからは架空の企業であるホワイトグローブ社の新規事業開発のストーリーを軸に、「温度ある経済の環」をつくるための方法を解説していく。
ホワイトグローブ社は、年商約6兆円の総合商社だ。売上高が横ばいの状況が続く現状を打破するため、同社は「2025年までに売上10兆円を目指す」という野心的な目標を掲げた。そして同社の事業部の一つを構成する社会インフラ事業グループには、100億円規模の新規事業を立ち上げるミッションが与えられた。しかし多くの従業員は既存事業の数字を守ることに精いっぱいで、変革につながる成果は出ていない。
既成観念にとらわれずに新規事業を進めるため、第一事業部長の小柿のもとにアメリカ帰りの佐藤が配属された。早速「通信インフラシェアリング」というビジネスを提案した佐藤だったが、社会インフラ事業グループの意見交換ワーキンググループでは反対意見が相次ぐ。
こうした状況を打開するために、小柿は外部のコンサルティング会社に支援要請することを決断する。複数のコンサルティング会社の提案と見積もりを比較検討した結果、主役はあくまでクライアントという考え方を持ち、金額も他社より安価なZ社の袴田に依頼することとなった。
新規事業を立ち上げるといっても、小柿や佐藤のように何から着手すればよいのか、頭を悩ませる人は少なくない。そこで事業開発を、シンプルな3つのフェーズに分けて考えてみよう。
最初は「将来ビジョンを描く」フェーズだ。ここではただ単に未来を想像するだけではなく、実現したい未来を見出すことが求められる。そのためには「ビジネス構成図」を使って、将来ビジョンを描き出さなければならない。
第2のフェーズは、「実現のシナリオを作る」である。このフェーズでは、基本設計と基礎工事を分けて考える。基本設計においては、将来ビジョンにもとづいて商品やサービスを具体化し、担当する人材やチーム、他社との連携方法について設計する。次いで基礎工事では、商品の準備やマーケティングの立案に加えて、関係者が情熱を持てるようにする「心のマネジメント」や、事業の収支モデルを作る「数字のマネジメント」を行う。
最後かつ最も大切なのが「事業を孵化させる」フェーズだ。トライアルを重ねることで、小さくとも目に見える成果を生み出していく。
アメリカ駐在帰りの佐藤と若手コンサルタントの袴田は、通信インフラシェアリング事業の市場調査に着手する。インターネットを使った調査によると、この分野の市場は急速に拡大しており、特にインドネシアにおいて成長期待が大きいことがわかった。しかもホワイトグローブ社は、インドネシアに営業拠点と顧客ネットワークを持っている。
しかし佐藤のなかに「このビジネスをなぜ立ち上げるのか」という大義がないことを小柿は見抜く。
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