本書のテーマは、データ活用の意義や具体的な活用方法を知り、モノを売る技術を身につけることである。
ではデータを活用するメリットは何なのか。1つめは、人間の勝手な思い込みを排除できること。2つめは、売上アップに直結する的確な施策を打てるようになることだ。
そもそも、人間の感覚と実際のデータには乖離がある。例えば、長らく流通業界などでは、「Zの法則」が絶対視されてきた。「Zの法則」とは、商品の並んだ棚やチラシを見る際、左上→右上→左下→右下とZの順番に視線を動かすというものだ。ところが、ある自販機メーカーが視線計測の技術を使い、消費者が実際に見る場所を調べたところ、最初に見るのは左上ではなく「下段の左端」であることがわかった。つまり、「Zの法則」が当てはまらない結果だったのだ。そこでこのメーカーは、左下に商品の配置を変更したところ、売上が大幅にアップしたという。
一方で、データを活用することによるデメリットはほぼない。どんな商品もデータに基づいた売り方をすれば、ある程度は必ず売れるからだ。消費者は最初の購入時、「いいものだから買う」のではなく、「なんとなく良さそうだから」というイメージで買っている。そのイメージを作ることは、データを駆使して商品を伝える「売り方」で解決できる。たとえ「残念な商品」であってもだ。
もちろん、リピートが伸びるかどうかは別問題である。リピートが伸びない場合は、商品そのものに原因がある可能性が高い。その場合は、ユーザーの声などのデータを参考にして改善していく必要がある。
これまでデータの活用は、資金力のある大企業の特権だと考えられてきた。しかし現在では、中小企業や個人事業でもデータの活用が容易になってきている。
実際、楽天市場の出店数48000店のうち、上位10%に当たる、月商1000万円を超える超優良店は、必ずしも大きな企業というわけではない。企業規模はさまざまだが、どの企業もデータ活用しているという共通点がある。売上を決めるのは、会社の知名度でも商品の品質でもなく、データである。まさにデータを活用するものが勝つ時代になっているのだ。
データは、経営者が見て見ぬふりをしてしまう自社の弱みも、ズバリと指摘してくれる。社内で問題点を指摘しあうと、社員同士の人間関係がギスギスするケースや、忖度して問題点が明らかにならないケースが多い。だが、データの活用は、こうした社内の人間関係に依存しないため、根本的な問題を明らかにしてくれるのだ。
一言にデータといっても、自社のビジネスに必要なデータは、企業、店舗により千差万別である。なかには自社にはデータなどないという会社もあるだろう。しかし、どんな会社にも必ずデータがある。データがないのではなく、データとして認識されていないだけなのだ。例えば、小売店のレジに記録されている情報、紙の伝票や帳簿も適切に集計すれば、立派なデータになる。
また、データの収集や分析をする余力がないという会社もあるだろう。だが、著者は自社でデータを取り、自社で分析することを推奨している。なぜなら、専門の会社に継続的に外注するのはコストがかかるからだ。さらには、当事者でない人が収集・分析したデータは、どこかふんわりしていて、使いにくいことが多い点にも留意したい。
著者が見出した売上の正体は、「売上=訪問数×転換率(コンバージョン率)×客単価」という公式である。この公式を活用して売上を上げるにはどうしたらいいのか。まずは売上を構成する、これらの3大要素のデータを収集する。次に売上を上げる公式に当てはめて分析する、というシンプルな2ステップだ。この方法はネットショップでもリアル店舗でも有効となる。
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