「あと1年で引退だな」――2017年のシーズンをシカゴ・カブスで終えたとき、この選択肢が現実味を帯びてきた。その年の成績は、49試合に登板して3勝4敗2セーブ14ホールド、防御率3.95。決して満足できるものではなかった。
一方で、43イニングで50奪三振と、「まだできる」という手ごたえも感じていた。42歳にしては立派だという声もあった。
やはり、まだメジャーでやっていきたい。日本のプロ野球は選択肢に入れず、あくまでメジャーにこだわっていた。
オフに入るとすぐに、数球団からオファーが舞い込んだ。しかし、希望する条件ではない。そのときは、まだまだオファーがあるとみていた。
シカゴ・カブスを離れることを表明して4ヶ月が経過しても、所属先は決まらなかった。自主トレ中も、代理人からの連絡を期待して、鳴らないスマートフォンを持ち歩いていた。もう、シーズンは目の前だ。
この年は、近年まれに見るほど、選手の所属先が決まらない年だった。ダルビッシュ有選手でさえ、2月半ばになるまで未定だったほどだ。
メジャーにいられなければ引退すると宣言していたものの、所属先が決まらない中で、本当にメジャーにこだわるべきかと悩み始めた。自分にとって大切なものは何なのか。メジャーでやりたいのか。それとも野球がやりたいのか。
その答えはもちろん「野球がやりたい」だった。日本のチームでも、自分を必要としてくれるチームがあるならばやりたい。実際、いくつかの日本球団からオファーが来ていた。
結局、読売ジャイアンツへの入団が決定した。10年ぶりにジャイアンツのユニフォームを着ると、獲得してくれたジャイアンツに対して「結果で恩返しをする」という覚悟が湧いてきた。
ジャイアンツは2018年に3位でシーズンを終えて、クライマックス・シリーズに進出した。まだ日本一のチャンスはある。同級生であり、著者を獲得してくれた高橋由伸監督が、成績不振を理由に監督辞任を発表してもいた。球団のために、できることをしなければならない。
初戦の相手は、2位のヤクルトだ。先発だった今村がツーベースヒットを打たれると、コーチから声がかかった。「ウエ、行くぞ!」。期待か不安か、アナウンスに球場がどよめいた。
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