「食べたいという欲求」には、複数の感覚器官がかかわっている。具体的には、目、触感、耳、鼻、口、胃、細胞、脳、心の9つだ。これらが、私たちに「食べたい」と感じさせる。
「9つの身体の声」がかわるがわるアピールするため、私たちは、いったい自分の中の何が飢えているのかわからなくなってしまう。しかし、飢餓感の各側面を個別に調べていけば、どの部分が訴えているのかを理解でき、食べることに関してよりよい判断ができるようになるのだ。
たとえば、肥満防止を目的として、手術で胃を縮小させる人がいる。彼ら彼女らは、「胃を縮める手術をすれば食べたいという欲求もなくなると思っていたのに、今もまだ食べたくてたまらない!」という。それは、手術で取り除けるのは「9つの身体の声」のうち「胃の声」だけだからだ。残り8つの声は、「ひもじい。何か食べたい!」と食べものを要求し続ける。
特に「心の飢え」は重要だ。心の飢えを埋めるために食べても、一時しのぎにしかならない。食欲をあおっている感情をつきとめ、その感情に直接対処しない限り、根本的な解決にはならないのだ。気分が落ち込む→食べる→食べすぎを悔やんで気分が落ち込む→もっと食べるという悪循環が生まれるだけだ。
「マインドフルに食べる」ようになると、食べたいという衝動が起きる直前に、心を占める感情と冷静に向き合える。そして、食べる以外の方法でその感情に対処できる。疲れてイライラしていたのであれば、ちょっと横になってひと眠りしたり、散歩にでかけたり、新鮮な空気を深呼吸して、リフレッシュするのもいいだろう。
本書は、「9つの身体の声」それぞれに対処する練習方法が紹介される。要約では、「心の声」を取り上げたい。
「心の声」に対処する練習方法とは、食事と食事の合間に何かを食べたくなったら、その直前の感情や考えを思い出してみるというものだ。また、間食をしたあと、そういう思考や感情にどんな変化が起きたかを考えてみよう。ハートの絵や「心の声」と書いたメモを、ふだん食事をしたり、間食したりする場所に貼っておくといいだろう。
心が食べものをほしがるとき、その根底には感情や過去の記憶がある。「マインドフルに食べる研修」に参加した人たちは、大切な人たちとともにした食事などについて、懐かしそうに語ってくれる。つまり、特定の食べものがすごく大事なわけではない。その食べものが思い出させてくれる雰囲気や情緒がもっと大事なのだ。
こういう食べものに対する想いは、愛されたい、気にかけてもらいたいという欲求から起こっている。特別な時間の温かい幸せな記憶が、特定の食べものに結びつき、あなたを駆り立てているのだ。
「マインドフルに食べる研修」に参加する多くの人が、心に大きな穴があいているような気がすると言う。その穴の原因は、愛する人やペットの死による喪失感、悲しみ、疎外感などさまざまだ。そして彼ら彼女らは、心の穴を埋めようとして食べてしまう。しかし、食べものを胃の中に入れたところで、心にあいた穴は埋まらない。どんな栄養豊かな食べものも、「心の欲求」を満足させることはできないのだ。心に栄養を与えられるのは、自分自身あるいは他者との親密さだけである。
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