2014年9月19日、アリババは史上最大の新規株式公開(IPO)により、大きな注目を浴びた。いまや、アリババの時価総額は、アマゾンやフェイスブックに匹敵するものとなっている。
アリババを中国版アマゾンと思っている人は大勢いるが、それは違う。アリババはアマゾンとは異なり、仕入れもせず在庫も持たない。配送も外部サービスプロバイダーが担っている。伝統的な意味での小売業ではないのだ。その代わりアリババは、出店者、マーケティング会社、サービスプロバイダー、配送会社、メーカーなどのネットワークを調整(コーディネーション)している。
アリババは1999年、ジャック・マーと17人の共同創業者らによって設立された。2003年には、新たなプラットフォーム「タオバオ」を立ち上げた。タオバオは広告収入ベースのモデルであり、売り手は無料でタオバオに商品を掲載できる。
タオバオは現在、小規模なブティックブランドやウェブセレブのような出店者など、幅広い層に開かれたプラットフォームとなっている。またアリババは、大手ブランド向けに天猫というウェブサイトを運営している。くわえて、クラウドコンピューティング、デジタルエンターテインメント、オンライン決済プラットフォーム「アリペイ」も運営しているという事業の幅広さだ。
チャン・リンチャオは25歳の起業家。中国のネット衣料品ブランド「リン・エディション」のトップ兼イメージキャラクターだ。
2015年春、チャンは同ブランドの新しい商品群15アイテムを、タオバオのネット店舗に並べていた。午後3時ごろ、サイトを6万人ものファンが訪問。わずか1分で商品は売り切れた。オペレーティング・マネージャーのルオ・カイは「先行予約」と表示された次のSKU(在庫管理の最小単位)のバッチを投稿した。すると、また20分後に完売。カイは次のバッチ投入に向けて、必要な素材や納期、10~20%の返品率、過去2週間のソーシャルメディアでの顧客の反応から、どれだけ予約を受け付けられるかを算出した。
リン・エディションは数千点の商品を販売する予定だった。ところが、在庫があったのはわずか1000点のみ。商品は注文を受けてからパートナー工場で製造する。製造から出荷まで7~9日はかかるが、消費者はその点は理解している。チャンは衣料品小売業をオンデマンド・ビジネスにしたわけだ。在庫はわずか、もしくはまったくもたず工場も所有しない。販売はネット上でのみである。
業績は好調で、2015年の最初の4か月でリン・エディションの売上高は、8000万元(約1100万ドル)となり、30%が純利益だ。リン・エディションのようなウェブセレブ企業は2015年以降急成長を遂げている。
リン・エディションの例は、中国で勃興した新たなビジネスモデルの威力を示している。企業は機械学習技術を活用し、相互に結びついたプレイヤー(買い手、売り手、サービスプロバイダー)がリアルタイムデータを通じて集結し、協調する。そして、顧客の行動や嗜好に自動的に対応することで、産業のあり方まで変革していく。この戦略を著者は「スマートビジネス」と呼ぶ。スマートビジネスは、従来のモデルと根本的に異なっており、かつてないほどの成長をアリババにもたらした。
アリババのスマートビジネスの要諦は次の方程式で表せる。「ネットワーク・コーディネーション+データインテリジェンス=スマートビジネス」だ。
スマートビジネスは、ネットワーク・コーディネーションとデータインテリジェンスという2つの柱を組み合わせて、バリューチェーン全体を再構築する。これにより、大規模化とカスタマイズを同時に実現するのだ。
ネットワーク・コーディネーションの最高の実例は、2012年11月11日の独身の日である。この日は、あらゆる商品が値引きされる、中国の一大イベントだ。
アリババの取扱高は、24時間で200億元(30億ドル)という衝撃の数字となった。同時に配送網が大混乱に陥った。道路は輸送トラックで大渋滞となり、7200万個もの荷物を適切に処理できなかった。通常なら3~5日以内に配送される荷物が、2週間経っても配送途上のまま。この混乱を受けて、アリババと運送会社らはインフラに投資。物流産業のための仕組みやシステムを整備し始めた。
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