『弟子規(ていしき)』は、18世紀ごろに『論語』をもとにして書かれた。論語から「孝弟(こうてい)」「謹信(きんしん)」「汎愛衆(はんあいしゅう)」「親仁(しんじん)」「学文(がくもん)」という規範のエッセンスを抜き出して、子供たちにも分かりやすく伝わる形にまとめ直されている。その全文はわずか1080字で、音で覚えやすいように3文字ずつの韻文構成となっている。
『弟子規』は子供に与えて終わりではなく、親が実際にやって見せるタイプの教材だ。だから子供が実践できていないとしても、親がそれを責めるのは筋違いである。むしろ親が反省すべきなのだ。
大人は、子供たちに「お友達と仲良くしなさい」と言いながら、会社で同僚の陰口を叩く。「小さい子をいじめちゃダメ」と教えているのに、上司から部下へのハラスメントがメディアを賑わせる。『弟子規』の内容は人間行動の基本でありながら、大人になると不思議なほどできなくなってしまうのだ。『弟子規』の内容が身についていないのに、高尚なビジネス本を読んだり、専門的知識を得たりしても、まったく意味がない。
『弟子規』は、「道徳」の実践について、日常生活に落とし込んで具体的に示してくれている。
その冒頭は「先ず父母に孝行をつくし、兄など年長者によくつかえる。次に言動を謹み、信用を得る」「人を泛(ひろ)く愛し、仁徳のある人に親しく学ぶ」「さらに力があれば、文学をすすめる」だ。ここに並べられた「孝弟」「謹信」「愛衆」「親仁」「学文」の5つのキーワードが『弟子規』の根本的な要素である。
その中でも特に強調されているのは、最初に言及されている「孝弟」だ。「孝弟」ができなければ、他のことができてもまっとうな人間とはいえない。だから「孝弟」から始め、「謹信」「愛衆」「親仁」「学文」の順に実践していこう。
本書では、『弟子規』の全文と日本語訳に加え、現代の視点を交えた簡単な解説が掲載されている。加えて「孝弟」「謹信」「汎愛衆」「親仁」「学文」のそれぞれについて、『弟子規』の中から選りすぐりの句を取り上げて、それらを日常生活においていかに実践すべきかが指南される。要約では、5つのパートのエッセンスを紹介する。
『弟子規』では、親孝行には4つの基本形があると説いている。親の身体に気を配ること、親の心を落ち着かせ安心させること、親の向上心や志を支援すること、親に智慧を授けてあげることだ。
本書では、『弟子規』の本文から「親に呼ばれたら、緩慢に応えてはならない」「親に用事を命じられたら、行動を怠ってはならない」「親の教えは敬って聴く」「親に叱られた時は、素直に受け入れる」が引用されている。両親を敬う心を持ち、両親の言うことを素直に聞き入れることが重要なのだ。そしてその心の対象を両親から社会の年長者へと広げていき、真の意味での敬う心が身につけば、調和のとれたチームを築くことができる。
また同様に「身体に傷があれば、親に心配をかける」「徳に傷があれば、親に恥をかかせる」を引用し、自分の身体をむやみに傷つけてはならないと強調されている。私たちには、自分の身体を使う権利はあるが、所有する権利はないのだ。
「謹」とは、自分の中に基準を持ち、その基準に従って自分を律する心構えだ。自分を客観的に見て、自分の意識や行動に向き合おう。
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