現在は一寸先の未来すら読みにくい時代だ。こうした時代には「今、目の前に見えるもの」から物事を考えるのではなく、「その背景には何があって」「どのような法則が働いて」「どのような未来になりうるのか?」を見抜かなければならない。そのために必要なのは、不確実性の高い環境変化を読み解いた上で確実性の高い結論を生み出す「推論力」だ。
著者は、推論力を「未知の事柄に対して筋道を立てて推測し、論理的に妥当な結論を導き出す力」と定義し、ビジネスに欠かせない能力だという。
多くのビジネス活動は、動かせない周辺環境を「前提」に置き、その前提を元に「推論」を働かせ、その推論に基づいて「結論」を生み出すというプロセスで成り立っている。このことから、前提から結論へとつなぐ推論力は、ビジネス思考力の要になるといえる。
また、推論力は分析力の向上に必須といえる。世の中のあらゆる物事は、目に見える「事実」と、推論でしか捉えられない「関係性」で成り立っている。そのため、何かを分析する際には、事実と事実同士の関係性を、推論で解き明かす必要があるのだ。
さらには、推論力はビジネス上のコミュニケーションでも求められる。論理に一貫性を持たせることで「伝えたいことが伝わらない」状態を回避できる。くわえて、推論力は生産性の向上や、優れた提案を生み出す際にも必要となる。
このように、見えないものを推測し、適切な結論を導き出す推論力は、ビジネスで必須とされる主要なスキルを支える中核能力である。洪水のように情報が氾濫する時代において、重要な情報を見抜き、精度の高い解釈をして推論を働かせる力は、希少価値となりえる。
ここからは、推論力の具体的な方法論である「帰納法」「演繹法」「アブダクション」の3つをそれぞれ紹介していく。
まず帰納法とは、「複数の事実から共通点を発見して結論を導き出す推論法」である。例えば、A社の社員三人は真面目な性格であるという事実を見つけたとする。すると、社員三人とも真面目な性格であるという「共通点」から、A社は真面目な社風だという結論を導くことができる。
帰納法は、複数の事実から共通点を発見し、全体に当てはめて結論づける推論法である以上、3つの点に留意しなければならない。それは、事実に偏りがある場合、共通点の発見に飛躍がある場合、結論部分に飛躍がある場合だ。
先ほどの例で、もしもA社にアバウトな性格の社員が複数いることがわかれば、事実の選び方に偏りがあったこととなる。よって、帰納法を扱う際には、常に「選び取った事実に偏りはないか?」「代表性はあるか?」について注意を払わなければならない。
また、真面目な性格の三人がいるという事実から、「官僚気質な性格」という共通点を見出したとしよう。これは共通点の発見に至るプロセスに飛躍がある。それゆえ、偏った評価となっており、推論に恣意性が入っていると疑われてしまうので注意したい。さらには、真面目な性格という共通点から、「A社の業績は安泰だ」と結論づけたとしたら、結論が飛躍し過ぎだといえるだろう。
帰納法は、「限られたサンプルから共通点を発見して、それを全体に当てはめて結論を出す推論法」でもある。そのため、推論が飛躍する可能性をゼロにすることはできない。100%論理的に正しい結論ではなく、論理的に確からしさが高い結論という位置づけにとどまらざるをえない。
しかし、ビジネスの実務で重要なのは、顧客や意思決定者の「期待と納得を追いかける」ことである。帰納法を、複数の事実を元に共通点を「洞察」し、推論プロセスを相手と共有する「コミュニケーションツール」として捉えることで、活用の幅が格段に広がるだろう。
帰納法を用いる際には、どのような「頭の使い方の手順」が必要となるのだろうか。最初のステップは、「観察力」を働かせて、さまざまな事実に気づくことである。観察力を身につけるためには、関心のフォーカスを絞り、事実を捉える際に変化や比較、フレームワークの視点を持ち、当たり前を疑うことが有効だ。
次にステップ2では、複数の事実の共通点を発見する。これには2つの方法がある。シンプルに直接的に共通点を見つける「観察的帰納法」と、物事を抽象化して多角的な視点を持つことで、洞察的に共通点を見つける「洞察的帰納法」である。
ステップ3では、いよいよ結論や法則を見出していく。
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