近年、ビジネスの分野でアートに注目が集まっている。しかし、アートの効果は見えにくく、短期的に成果が上がるものでもない。著者らの問題意識は、アートの数字に表れにくい効果を、多様な観点から明らかにすることだ。
まずは著者らの定義する「アートパワー」と「アート効果」について説明しよう。アーティストが作品を作り続けていく活力の源泉になっているのが「問題提起力」「想像力」「実践力」「共創力」の4つのアートパワーである。アーティストは内発的な問題提起や社会へのまなざしといった視点から(問題提起力)、想像力を駆使し、これまでに見たこともないようなコンセプトを立て、批判や孤独と闘いながら(共創力)アート作品として実践していく。
アートをビジネスに取り入れるには、一人ひとりがアートパワーを「内在化」する、つまり「アートパワーが私たち個人の思考や感性になんらかの影響を及ぼしている状況」にする過程が必要だ。この過程を通して、「ブランディング」「イノベーション」「組織活性化」「ヴィジョン構想」の4つのアート効果が期待できる。
これらのアート効果は、相互に影響し合い、さらなる波及効果を生み出す。アートを扱うことでブランディングし、新しいヴィジョンを実現できることもあれば、革新的なプロダクトが組織活性化につながっていくかもしれない。アートパワーがじわじわと浸透していくことで、企業としての個性がより強くなっていく。
1950年創業の寺田倉庫は、いわゆる普通の倉庫会社だった。競合企業に先駆けてトランクルーム事業を始めたが、やがて価格競争に陥り、差別化できる特徴もなければ、一番と誇れる実績もなくなってしまった。しかし代表取締役に中野善壽氏が就任したことをきっかけに、倉庫業の枠を超えた新規事業を次々に生み出すこととなる。
その新規事業の中心とも呼べるのが、アートビジネスである。多くの顧客が倉庫にアートを預けていることに着想を得て、美術品保管にまつわる設備だけでなく、美術品を取り出して確認するためのビューイングルームや、展示を行うギャラリースペースも設けた。
また、アートを保管するだけでなく、輸送やギャラリースペースの提供など、付帯サービスにも目を向けた。輸送などの際に事故が起きたときのことを考え、保険などを提供するグループ会社も設立し、10年足らずで「美術品保管と輸送といえば寺田倉庫」という立ち位置を確立させた。
大手楽器メーカー、ヤマハ。同社のビジネスにもアートの視点が取り入れられている。ここでは、アーティストとの対話と思考から生み出された「TENORI-ON」について紹介する。
TENORI-ONは、ヤマハとメディアアーティストの岩井俊雄氏が「未来の楽器」というコンセプトで共同開発した電子楽器だ。
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