すべての始まりは、デンソーがトヨタに部品を納入していた関係で、トヨタの生産方式である「かんばん」を導入したことにある。「かんばん」とは、何をどこから仕入れ、どこに置いておくかをわかるようにした標識のようなもので、「必要な時に必要なものを必要な量だけ」生産することを目的としている。
だがデンソーでは、多頻度納品による検品や伝票の起票作業などで、時間と人手がかかってしまうという課題が生じていた。そこで「かんばん」をコンピュータで読めるようにすれば、製品のチェックと伝票の自動作成を行えるようになると考えたのだ。
しかし、ことはそう単純にはいかなかった。自動車部品工場の現場は油汚れが多く、ひどい状態の「かんばん」でも読み取れるようにしなくてはならなかったからだ。しかも「かんばん」に含まれる製品の情報を収納するために、少なくとも60桁以上のデータを格納できる必要があった。それを満たす既製品のバーコードとそのリーダーは、まだ市場になかった。
そこでデンソーは取引のあった神崎製紙の自動写植機をもとに、印刷にも強い「NDコード」を開発するとともに、当時普及していたものより読み取り性能が高く、安価なバーコードリーダーを発明した。
それだけでは終わらない。このバーコード技術の保守・修理・管理を担当する会社として設立されたSKKは、小売企業への導入に乗り出した。
最初に手を挙げたのはセブンイレブンだ。POSレジを導入したばかりだったセブンイレブンは、販売情報を迅速に管理するだけでなく、頻繁に入れ替わる大量の商品の納品と検品を手早く正確に行うために、このバーコード技術を自分たちで応用した。すると売り逃がしロスが減り、売上も飛躍的に向上。結果、他のコンビニエンスストアでも導入されるようになった。
こうして得られた売上を原資としながら、デンソーはQRコード開発へと踏み出していく。
QRコードの父と言われているのが、当時デンソーで技術者をしていた原昌宏であった。
1980年代に入り、モノ不足の時代からモノ余りの時代に突入したことで、自動車にも多様性が求められるようになった。部品工場でも多種多様なものを管理する必要に迫られ、NDコードの「かんばん」に限界が見られはじめた。NDコードのような一次元シンボルでは、取り扱える情報量が少ないためである。
そこで、アメリカで盛んに開発されていた二次元コードを独自にアレンジし、新しいコードの開発に着手することになった。より大容量の情報を短時間で簡単に、ミスなく処理できるようにする挑戦の始まりである。
新しい二次元コードには、少なくとも200桁以上の情報を「かんばん」に表示し、ワンタッチで油などの汚れにも強く、伝票処理に必要な情報を盛り込めるといった条件が求められた。
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