本書のテーマである資料作成やプレゼンの機会は、近年、減少の一途をたどっている。その理由は3つある。まず、職場でより一層のデジタル化が進み、資料作成の機会が減ったこと。次に、ビジネスチャットの普及により、コミュニケーションのスピードが速くなり、メールや資料作成の頻度が低くなったこと。最後に、テレワークの拡大によって、打ち合わせ時にプリントアウトした資料を手元で見ながら話す動機が弱くなったことだ。
これからの時代、こうした「デジタル完結」が求められている。この傾向は、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生したことも追い風となってさらに加速し、やがて紙ベースの資料を使わない「紙0枚」時代が到来するだろう。
著者が勤務していた当時のトヨタには、企画書から報告書、キャリア面談まで、あらゆる提案や報告を紙1枚にまとめるという文化があった。著者は入社した当初、毎日のように資料を作って上司に見せ、真っ赤に添削された資料を受け取ることを繰り返していた。情報を紙1枚にまとめるのは難しく、提出と添削を何百回と繰り返してようやく、資料を「紙1枚」にまとめていくコツが体得できた。そのキモになっていたのは、問いを正しく立て、考え抜くことだった。
著者は「紙1枚」資料を作りながら、自身の仕事について考え抜いていた。「そもそも、この業務は何のために行っているのだろうか?」「今起きている問題の根っこの原因、原因の原因の原因は何だろうか?」「どんなアクションをすることが、最も効果的かつ現実的なのだろうか?」と。
この「考え抜く」という作業を抜きにしては、資料を紙1枚にまとめることはできない。考え抜けばこそ、資料に掲載すべき情報を精査でき、プレゼンで話す言葉も研ぎ澄まされ、説得力が生まれるのだ。
働き方改革のセンターピンは「考え抜く力」だ。考え抜く力が弱い状態で時短や生産性を追求しても、無駄なコミュニケーションが増えるだけである。著者の講座を受講した人の中には、ビジネスチャットで部下が話しかけてくる際、何が言いたいのか部下本人もわかっていないようだと悩んでいる人もいた。考え抜いて仕事をする習慣をもたない社員がチャットを利用しても、相手の貴重な時間を過剰に奪ってしまうだけだ。
しかも、「考え抜く力」を高める基本動作は、デジタル完結のワークスタイルの普及によって失われつつある。資料作成を通じてじっくり考え抜く機会が減り、チャットで気軽に、スピーディーなコミュニケーションをとることがよしとされるからだ。
では、「考え抜く」とはどういうことか。それは、「情報を整理」し、「考えをまとめる」という2つのプロセスを繰り返す、「思考整理」のことだ。
思考整理の手段としては資料作成が最適だが、今やその機会は失われつつある。そこで著者は、「紙1枚」による思考整理法を提案する。
トヨタの「紙1枚」資料フォーマットの特徴は3つ。1つ目は、「紙1枚」にまとまっていることである。1枚に収めるべく、言いたいことや問題の原因、障壁などを簡潔にするため、考え抜く習慣がつく。
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