AI(人工知能)は、この5年ほどで飛躍的な進歩を遂げた。「ディープラーニング」(深層学習)によって、より複雑な計算ができるようになったのだ。「ルールと変数(変動要素)が限定された枠の中で最強の答えを見つける」という作業において、もはやAIは人間の能力を超えた。それは単に「確率」と「統計」を複雑化したものに過ぎないのだが、「なぜその答えが正しいのか」を導き出すロジックが、人間の理解力を超えてしまったのである。
たとえば胃の検診で、「CTやMRIの画像1000枚の中から1ミリ未満の悪性腫瘍(がん)が写っている画像を正確に抽出せよ」といった課題があったとき、人間よりもAIのほうが正確さとスピードで勝る。AIなら過去の膨大な枚数の検査画像をあらかじめ読み込み、悪性腫瘍の「特徴量」を自動的に抽出して学べるからだ。画像診断を中核業務とする放射線技師の仕事は、その大半がAIに代替され、人間の仕事ではなくなるだろう。
一方で株価・為替・不動産価格の動きの未来予測(投資)など、「変数が完全に限定している」とはいえないものにおいて、AIの成果は芳しくない。株式相場や為替・不動産市場では、世界中のあらゆる事象や過去に例がない出来事が変数となるため、「組み合わせ爆発」(指数的爆発)を起こしてしまう。よって証券アナリストやファンドマネージャーが、AIに代替えされて失業することはないと予想できる。
2020年以降の日本では、労働力人口の減少と、介護などの人手を必要とする高齢者の増加が同時進行する。そのためテクノロジー(IT、AI、ロボティクスなど)を活用して自動化を急速に進めなければ、社会が回らなくなってしまう。機械と競合する分野の仕事はすぐ機械に代替され、人間は別の業務や職種に吸収されていくはずだ。
では人間にしかできない仕事とはなんだろうか。著者はさまざまな現場労働者たちのもとに赴き、「あなたのその業務は機械(IT、AI、ロボット)に代替できるか?」と話を聞いて回った。そしてその根拠を問いながら議論し、「これは絶対に人間にしかできない」と判断したものの共通点をまとめた。その結果、(1)創造ワーク、(2)感情ワーク、(3)信用ワーク、(4)手先ワーク、(5)ボディワークの5つが、人間の強みを生かせる業務であり、同時に自動化のボトルネックとなっているという結論に至った。これらの要素が業務の中核スキルにある職業は、今後も自動化しないだろう。
創造ワークは、発想力・構想力のうえに成り立った職業だ。創造性に関するプロセスはほとんど解明されておらず、AIで代替するのは難しい。ただし創造力だけで成立する職業には限りがある。創造力は起業家や経営者など、さまざまな職業に欠かせない能力であるが、それだけでは務まらない。創造力だけで職種として成立するのは、画家や彫刻家などの芸術分野くらいだ。
感情ワークとはいわゆる「感情労働」のことで、介護福祉士、看護師などの専門職のほか、高級レストランのウェイターや鉄道の駅員など、ほとんどのサービス業で必要となる能力を指す。「感情」や「感動」は人間にしかないもので、対峙する顧客や場の空気によっても答えが変わる。そこで論理的な正しさは求められない。AIには人間の感情を読み取る能力はないため、この領域も代替されにくい。
また、信用ワークも人間ならではだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる