なぜネギ1本が1万円で売れるのか?
なぜネギ1本が1万円で売れるのか?
著者
なぜネギ1本が1万円で売れるのか?
出版社
出版日
2020年10月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

1本1万円のネギが売れている。驚かれるかもしれないが、これは事実だ。この高級ネギを企画し、売り出したのが、本書の著者である清水寅氏だ。

著者は、金融系の会社に就職後、20代で7社の社長を歴任し、脱サラしてネギ農家に転身した。2014年にはねぎびとカンパニー株式会社を設立し、1本1万円のネギを栽培するまでに至る。そんな著者のこれまでの軌跡を描いている本書の与えてくれる視点は、農業の枠だけにとどまらない。スポーツ少年だった著者が就職し、脱サラして就農する過程は刺激的だ。こだわりのネギ栽培について、苗の育成から出荷までの工程が詳細に解説されており、農業経験がない人にも「こんなにも手をかけて育てているのか」という驚きがあるに違いない。1万円のネギを売り出すためのマーケティングの視点、ブランド化の戦略についても興味深い。組織を牽引する著者の、生産性向上のための施策や、2019年に山形県ベストアグリ賞・農林水産大臣賞を受賞した「従業員が生き生きと働く仕組み作り」は組織経営の観点でも参考になることだろう。

様々な視点から新しい取り組みを続ける著者の成功の秘訣をあえて絞るとすれば、「鋭い洞察力」と「人一倍の努力」になるのではないだろうか。それまでの当たり前を疑い、ネギが本当に元気に育つ環境を考え抜き、様々な物事の本質を鋭い洞察力によって見極め、そこに人一倍のリソースをつぎ込んでいく。そのような著者の仕事に対する真摯な姿勢は、業種を超えて、広くビジネスパーソンに気づきを与えてくれるだろう。

著者

清水寅(しみず つよし)
1980年、長崎県生まれ。長崎県内の高校を卒業後、金融系の会社に就職。20代で7社の社長を歴任。その後、親戚からの勧めもあり脱サラ、2011年より山形県天童市にてネギ農家を始める。2014年にねぎびとカンパニー株式会社を設立。同社代表。「 初代葱師」を名乗り、様々な苦難を乗り越え、2015年に糖度19.5度、2017年には21.6度のネギを作り上げる。現在は、「真の葱」「寅ちゃんねぎ」「キスよりあまい ほうれん草」などブランド野菜を農地10haにて栽培。2019年より、300万本に10本しかとれない奇跡のネギ「モナリザ」の栽培に挑戦。同年山形県ベストアグリ賞受賞。2020年からは全国のホームセンターにてネギ苗、タマネギ苗の販売も開始。日本の農業に一石を投じたいという夢を持ち、美味しさを徹底追求しながら世界で戦える農業経営を目指している。

本書の要点

  • 要点
    1
    金融系の会社に就職した著者は、様々な業種の会社の社長を歴任したのち、脱サラ。山形県で就農し、ネギ農家に転身する。
  • 要点
    2
    ねぎびとカンパニー株式会社を設立した著者は、経営の安定のため、市場を通さずにネギを売ること、ネギの単価を上げることに取り組む。
  • 要点
    3
    1本1万円の高級ネギを売り出すことによって、ブランド化に成功したねぎびとカンパニーは、ネギの小売価格を上げることができるようになった。
  • 要点
    4
    著者は社員が生き生きと働ける環境づくりに取り組み、会社全体で高い生産性と品質を実現している。

要約

30代で脱サラし、就農へ

一番になるため、誰よりも努力する
South_agency/gettyimages

学生時代にスポーツにのめりこんだ著者は、体操や卓球で抜きんでた成績を残す。「すべては練習量で決まる」を信条とし、「一番になるまでやめない」と決めたら徹底的にやり抜いてきた。

高校卒業後は一時期「燃え尽きて」しまったものの、体育会系で年上に可愛がられるタイプだった著者は、金融系の会社の面接を経てすんなり入社が決まる。それまでスポーツばかりしてきた著者は、簡単な漢字も書けず、ひらがなばかりの履歴書を提出した。これでは本部の審査を通らないと、面接をしてくれた支店長に教わりながら漢字で書き直すことになった。入社後も問題は続く。割り算ができないので利息計算もできなかった。人より遅れているから努力するしかないと感じた著者は、漢字も計算も猛特訓し、誰よりも長い時間働いた。

消費者金融の回収の業務を担当するようになると、相手の懐に入る術を身につけ、頭角を表すようになる。21歳のときには北海道・北見支店の支店長を任せられ、半年で支店の営業成績をトップにしてしまう。その後、北海道ブロック長を経て、25歳という異例の若さで全営業部隊のトップに立った。

所属していた消費者金融会社は他社へ売却されるが、会長に気に入られていた著者は、その後グループ内子会社の社長を7社ほど任せられ、様々な業種を経験していく。

心機一転、移住して農家の道へ

雇われ社長時代、「もし業績が上向かなかったら、死んで詫びよう」と本気で思っていたという著者は、体の違和感など気に留めなかった。しかし、30歳を迎える頃、身体は悲鳴を上げ始める。2.0だった視力は働き出してから0.1にまで下がり、後天性無汗病という汗をかかない病気も発症。この病気は今も治らない難病である。「あんた、なんか死にそうだよ」と妻に言われるほど異常に顔色が悪かった。ストレスが身体の内外に噴出し、文字通り「限界」だった。

「そろそろ自分の事業をやってみたいな」と考えるようになっていたタイミングでもあった頃、妻の故郷である山形県天童市に住む親戚から愚痴を聞かされる。「農家に元気がまったくない。あんたが元気にしてくれ」と。すぐにその気になってしまう性格の著者は「俺が山形の農業を元気にしてやろう!」と意気込み、周囲の反対を押し切って、2011年3月に天童市に移住することを決める。

【必読ポイント!】 1本1万円のネギが、200万本のネギの価格を上げる

品質や原価を考慮しない、農作物の価格づけ
akinbostanci/gettyimages

農業を始めた著者を打ちのめしたのが、農業市場と単価の問題だ。農作物の価格は、品質や原価とは無関係に決まる。多くの農家は通常、農業協同組合(農協)を通じて作物を出荷している。市場では、農作物の値段は競りで決まるため、値段は乱高下する。品薄の時期には倍になるし、品物があふれている時期は半額にもなる。

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要約公開日 2021.01.06
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