スポーツ界、芸能界、ファッション業界、自動車業界、金融業界……。世の中には業界、業種ごとに独自の文化、慣習がある。それぞれ業界の中だけで通用する常識がある。その常識は、ときに世間一般と比較すると非常識と思えるものもあり、時代遅れの場合さえある。
著者は、中国電力で陸上選手として現役生活を終え、約10年の時を経て陸上界に戻ってきた。そのとき、自分の現役時代とまったく変わらない指導方法がいまだに主流となっていることに気づいた。
新しい発見やアイデアは、内から生まれるより、外と交わることで生まれてくるものだ。著者は、青山学院大学陸上競技部の監督に就任して以来、中国電力の営業マン時代に学んだビジネスノウハウを積極的に取り入れてきた。
著者が青学陸上競技部の監督に就任した当初から意識してきたのは、誰が監督になっても強い組織にすることだった。世の中には、経営者が変わっても従来通り成長を続ける企業はいくらでもある。長期的に繁栄を続ける企業のように、トップが変わってもぐらつかない組織を目指した。
その土台づくりで心がけてきたのは、任せられるようになったら権限を委譲することだ。役割を分担して責任感を持たせることで、その役割を与えられた人は成長し、組織の成長にもつながる。
突然スーパーエースが出現して勝つチームのほうが、観ている側には魅力的に映るかもしれない。しかし、それだけでは大きな大会を連覇したり、常に上位を争うチームとして定着したりはできない。
著者は、仮に自分が監督を辞めても弱くならないように、スーパーエースの出現を待望するのではなく、時間をかけてチーム力を底上げして優勝を狙うやり方を選んだ。
著者は、自分が就任したばかりの頃の青学陸上競技部に、2015年箱根駅伝初優勝のメンバーが揃って入部していたとしても、結果を出せなかっただろうと話す。なぜなら、就任当初の青学陸上競技部には、育成システムがなにひとつできあがっていなかったからだ。
「規則正しい生活をする習慣」もなければ、「目標を管理して計画的に総力を伸ばしていく方法」もない。「コンディションを整える」ことも、「大会に合わせて状態をピークに持っていく方法」も確立していない。どんなに素材がよくても、その潜在能力を引き出し、伸ばしてあげる環境がなかったのだ。耕していない土壌に、いくらいい種を蒔いても芽は出てこない。
一方、いい種が芽を出し、ちゃんと育っていくような土壌をつくるにはそれなりに時間がかかる。著者の場合はその土壌づくりに10年近く費やした。
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