2017年、著者は中国において、グーグルが買収した人工知能のスタートアップであるディープマインドと世界1位にランクインしていた囲碁プレイヤー柯潔(カ・ジェ)の試合を取材した。結果はディープマインドがつくったプログラムの3連続勝利に終わった。
「ディープマインドというスタートアップのもたらすインパクトをいち早く理解していた」のは、買収を行ったグーグルでも、ディープマインドの研究論文を表紙に載せたサイエンス誌「ネイチャー」でもなく、ピーター・ティールが率いる「ファウンダーズ・ファンド」であるという。つまり、ベンチャーキャピタル(VC)である。
ディープマインドの創業者であるハサビスは、創業する1カ月前に、ファウンダーズ・ファンドのオフィスを訪れ、代表のピーター・ティールと意見交換を行っている。
グーグルがディープマインドを買収した際には、ファウンダーズ・ファンドは、約1億6000万ドル(約169億円)というリターンを手にした。これだけでもすごい金額だ。
彼らがこれまでに投資したのは、ディープマインドだけではない。この他にも、フィンテックベンチャーのストライプ、テロ対策にも使われているビッグデータ分析ベンチャーのパランティアが、まだ無名のころに投資を行っている。
無数にあるスタートアップから、世界を変えるようなイノベーションを起こすゲームチェンジャーのような、特別な会社を見つける。そして資本を注入し、急激な成長に導いていくさまは、まさに「キングメーカー」の名にふさわしい。
ベンチャーキャピタルがどのように、スタートアップを探しているのか。そのプロセスはあまり、明らかにされていない。
日本では馴染みの薄いVC。その数は米国だけで8000社以上あり、シリコンバレーだけでも2500社を超えている。しかし、ゲームチェンジャーとなるような強烈なスタートアップを見つけ、資金提供によって彼らを成功に導き、そのリターンの大部分を手にしているVCは、上位1%ほどと極めてわずかだ。
優れたVCについて多くが語られていない理由の1つは、情報開示をする義務がないことだ。多くのスタートアップは上場していないため、売上も成長率も一般に公開する必要がない。そこに投資するVCも、どの位の利益や損失を出したか示さない。まれに公開されている情報があるとすれば、その多くはマーケティング上の理由で示された情報であり、必ずしも正確を期すとは言えない。
またVC産業では投資するファンド全体のうち、65パーセントが「失敗」に終わる。スタートアップ投資の運用期間を終え、ファンドの売上を目標どおり2~3倍に増やせるのは、ごく少数に限られる。
このように、謎に包まれたVCの世界のトップ1パーセントの投資家たちは、どのようにスタートアップを探しているのか。本書はそれを解き明かすべく、アメリカ全土と主要国にVCのネットワークを持つSozoVentures(ソーゾー・ベンチャーズ)と協力し、謎に包まれた人たちへのインタビューを実現させていった。
取材を重ねると、トップレベルのVCは、それぞれ全く異なる戦略によって、スタートアップを見つけているようだった。一方、「独自の仮説によって勝ちパターンを出す」という「再現性」へのこだわりという点においては、みな共通していた。
「まぐれ」ではなく、「計算されたリスク」に基づき、大きなイノベーションを起こすスタートアップを世に送り出すことに成功してきた。
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