「自分の意見が伝わらないのは、口下手だから」「言葉の使い方が巧みでなければコミュニケーションはうまくいかない」と思っている人もいるだろう。脳科学の見地からすれば、それは誤解である。
ある会社の社長と職人肌の棟梁が打ち合わせしたとする。社長は言葉を尽くして自分のアイデアをプレゼンするが、棟梁は「何が言いたいかわからない」と戸惑うばかりだ。社長も「こんなに丁寧にしゃべったのに、どうしてわかってもらえないのだろう?」と困ってしまった――。
こうした行き違いが起こるのは、「言葉以外」のやりとりをないがしろにしているからだ。社長は「コミュニケーションにおいては、言葉のやりとりがすべてだ」と誤解している。実際、言葉巧みなプレゼンで社員や取引先を動かしてきたのだろう。一方、「仕事は背中から学べ」と、言葉よりも行動で伝え合うことに慣れている棟梁にとって、数多くの言葉は役に立たなかったのだ。
コミュニケーションにおいては、相手に応じた「言葉以外」のやりとりが重要だ。そのためには、言語以外の脳のエリア=見る、聞く、感じる、考える、記憶する、行動するなど、脳全体を使ったコミュニケーションを意識する必要がある。
では、具体的にどうすれば「伝わる人」になれるのか。その鍵を握るのが「脳番地」という考え方だ。
脳には1000億個以上の神経細胞が存在しており、同じような機能をもつ神経細胞が集まって「基地」のようなものを形成している。著者はそれを「脳番地」と呼ぶ。
脳番地は役割ごとに8つに区分できる。「伝達系」「理解系」「聴覚系」「視覚系」「思考系」「運動系」「感情系」「記憶系」である。たとえば思考系脳番地はものを考えたり発想したりすることに関わる脳番地で、運動系脳番地は体を動かすことに関わる脳番地だ。
脳番地の成長度合いは人によって異なる。コミュニケーションをとるのが好きな人は伝達系脳番地が、スポーツが好きな人は運動系脳番地が発達しているといった具合だ。
MRI画像を見ると、まだまだ成長余地のある未熟な神経細胞が、脳にはたくさん残されていることがわかる。著者はこの未熟な神経細胞を、成長の可能性を秘めた「潜在能力細胞」と呼ぶ。潜在能力細胞を刺激して成長させれば、新たな才能を発揮することも可能だ。
たとえば、読書は好きだがコミュニケーションは苦手だという人は、理解系や思考系の脳番地は発達しているが、伝達系や聴覚系・視覚系は未開発なのかもしれない。未開発の脳番地を鍛えれば、コミュニケーション能力が高まるだろう。
「伝わる人」になるための脳番地の使い方には3つのステップがある。
1つ目のステップは「自分の脳番地を使いこなす」。
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