現在は未曽有の「情報氾濫社会」である。同時に、「自分の意見が絶対的に正しい」という、人々の思い込みが強くなっている時代でもある。
自分とは異なる考えを持つ相手に対して、「それは違う」「あなたは間違っている」という沸騰した感情に流され、不毛な議論をしていないだろうか。正義を笠に着た誹謗中傷が絶えず、命を落とす人さえいる。敵をやり込めることしか考えず、不毛な対立をくり返す。そしてそれが究極的に悲惨な戦争へと発展する。
テクノロジーの進歩が著しく、情報量が爆発的に増える一方、新型コロナやウクライナ侵攻といった大事件が起きている今日の状況では、日常生活とビジネス、どちらの場合も、何が「正解」なのかは誰にも分からない。それにもかかわらず、議論をして理解を深めるよりも、「論破」が「偉いこと」とされる風潮がある。どちらが正論で、どちらが邪論かを決めつけるための議論をしても、一向に解決策が出てこないというのに、である。
自分の考えこそが「正義だ」と決めつけた途端、人間は思考停止に陥ってしまう。そのため著者は、自分の意見を主張するのに正義や正論という、個人の価値観によって転変する概念を、振り回さないようにしている。思考停止にならず、より生産的な議論のプロセスを回すため、著者は「フェアの思考」を駆使するのである。
価値観や物事の見え方・考え方は、人それぞれ異なるものだ。それが当事者間で乖離し、対立した究極の状態が戦争である。戦争当事者は、たとえそれが周りから屁理屈のように見えたとしても、それぞれ戦争を正当化する理由だと考える。
2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を発端とする戦争においては、ロシアが拒否権を持つ国連安全保障理事会常任理事国であるため、その侵略行為を止める強制力を持つ機関が存在しない。そうすると、戦争継続中のどこかで、当事者同士の政治的妥結が必要になる。
そもそもは、戦争を回避することが、政治と外交の使命であり、そのためにも政治的合意が必要不可欠である。その際、当事者同士が自分の主張を絶対的な正義だと言い張っていては合意には至らない。
そこで必要となるのが「フェアの思考」だ。「同じ事象でも、自分と相手では見え方が違う」。このことを大前提にして、
・自分が主張することは、相手にも同じ主張を認める。
・自分がやってきたことは、相手にも同じことをすることを認める。
・相手を批判するなら、同じ理由で自分も批判されることを認める。
・自分が批判されたくないなら、相手を同じ理由で批判しない。
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