大きな成果を上げるには、自分と異なる専門性や強みを持つ人と協働することが重要だ。対話は、そうした協働を通して、ありたい未来を自分たちの手で創り出す行為に欠かせない手段である。
多様な人たちと対話をすると、驚きや違和感を抱くことがある。驚きや違和感は、自分にとって未経験で、自分の常識の枠の外にある「何か」と遭遇したときに生まれる感情だ。そのため対話では、驚きや違和感との出会いを、新たな発見の機会であると捉える。
自分の常識や固定観念に気づくためには、メンタルモデルに対する理解が欠かせない。
メンタルモデルとは、マサチューセッツ工科大学のピーター・センゲ氏が提唱する「学習する組織論」で紹介されている、私たちが物事を捉える際の前提のことだ。メンタルモデルは過去の経験を通して形成され、その人のものの見方を決める。
例えば「犬に遭遇する」という経験をしたとき、その事実に対する判断は一人ひとりのメンタルモデルによって変わる。
小さい頃から犬を飼っていて、犬をかわいがった経験を持つ人の多くは、「犬は自分を癒やしてくれる存在である」というメンタルモデルを形成する。このようなメンタルモデルを持つ人が犬に出会うと、犬に近づき、かわいがりたくなる。
逆に、小さい頃に犬に吠えられたり、追いかけられたりした経験を持つ人の多くは「犬は危険な存在である」というメンタルモデルを形成する。このようなメンタルモデルを持つ人が犬から遠ざかろうとするのは、ごく自然な行動だ。
メンタルモデルと驚きや違和感には、どのような関係があるのか。
私たちは、自分のメンタルモデルに当てはまらない何かに遭遇したとき、驚きや違和感を覚える。自分と正反対の意見に遭遇したとき、不快に感じてしまったり、その存在自体を否定したくなったりするのも、メンタルモデルの影響だ。
しかし、価値創造のための対話では、驚きや違和感は不都合なものではなく、歓迎すべきものである。新鮮な学びを獲得したり、新たなメンタルモデルを形成したりするきっかけになるからだ。
これから紹介する対話の5つの基礎力を身につければ、対立する意見に遭遇しても、自分の感情をコントロールしつつ、成果を生み出すための対話を効果的に実践できるようになる。
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