いま地球では毎日約15万人が死んでいる。そのうち10万人以上の死因は老化によるものだ。何千万もの人が数年から数十年にわたる健康の衰えで苦しんでいる。これほど大規模な影響があるにもかかわらず、老化はあまりに普遍的であるがゆえに、真剣に対策がされていない。具体的な病気には恐怖を覚えるが、社会全体として老化そのものには向き合っていないのだ。
ほとんどの国が寿命という点では先進国に近づき、世界の平均寿命は2019年に72.6歳になり、いまも伸びている。老化はもはや世界最大の死と苦痛の原因である。世界の開発と人口の高齢化が進むに連れてふくれ上がる危機に対して、私たちに何ができるのか。その答えは生物学にある。
1930年代、科学の歴史を変える画期的な発見があった。研究者が実験用ラットを3つのグループに分け、ひとつには好きなだけ餌を食べさせ、残りふたつには餌の量を減らして必要な栄養はすべて得られるように管理した。すると、好きなだけ食べるラットは歳をとり1匹ずつ死んでいったが、食餌を管理したラットは生きつづけた。健康で、白い毛も増えず、がんにもかからず、少食が老化プロセスそのものを遅らせたかのようだった。
その後おこなわれた他の生物での実験でも、結果は一貫していた。多くの生物が、大幅に食餌を減らすことで長く生きた。食べ物を減らしすぎると飢餓になるのは明らかだが、うまく調整すれば、ふつうに食べるよりも寿命が有意に長くなり、健康状態も良好だったのだ。こうした発見で、老化は生物学的必然ではないということがわかった。
ダーウィンは自然淘汰による進化論を『種の起源』で発表した。進化に照らして意味をなす理論上、実験上のエビデンスは無数にある。問題は老化と進化をどう調和させるかだ。もし進化が適者生存でなりたっているのなら、衰退が進行するプロセスの何が最適だというのだろうか。なぜヒトの進化は、自己修復の効率性を高めて、無限に完全な状態が続くようにしなかったのだろうか。
3,400冊以上の要約が楽しめる