節目のときだけは絶対に強く意識してキャリアをデザインすべきだ――本書における著者の主張をひと言で言うと、こう表現できる。
遠い未来のキャリアまで綿密にデザインするのは難しいものだ。だが、数年に一回ほど訪れる節目だけデザインして、ぶれない方向感覚をもっていれば、節目と節目の間の期間は多少流されてもかまわない。流れに身を任せるなかで、意外な発見にも巡りあえるだろう。
キャリアや生涯発達の文脈において、節目は「トランジション」という言葉で表される。また、人生やキャリアは、安定期(流されてドリフト状態でも大丈夫な時期)と移行期(しばしば危機でもある節目)が繰り返されるとされている。分かれ道にさしかかった地点・時点や、十字路などに立ったときがトランジションだ。
トランジションは通常、安定期の後には危機が、危機の後にはやがて安定期がやってくるというサイクルをなしている。そうした繰り返しがひとの発達につながるのだ。
臨床心理学者のウイリアム・ブリッジズは、トランジションを次の3つのステップからなると説明する。
(1)終焉(何かが終わる時期)
(2)中立圏(混乱や苦悩の時期)
(3)開始(新しい始まりの時期)
人生やキャリアは「安定期」と「移行期」を繰り返すと先述した。移行期とは、ある状態が終わり、別のある状態が始まる時期だ。だが、多くのひとが、後者の「開始」ばかりを目にして、「終焉」を不問にしてしまいがちである。
また、その移行期が大きな転機であればあるほど、「終焉」から「開始」への移行には戸惑いが伴う。新たな「開始」に向けて、途方にくれたり、やや宙ぶらりんな時期になったり、少し空しくなったりもしながら、気持ちを整えていく時期が必要だ。
具体例として、第一子の誕生を挙げてみよう。ブリッジズの集団療法に来ていたある女性は、ずっと子どもがほしかったという。しかしいざ第一子が生まれてみると、子育ての大変さにおおいに戸惑ったようだ。怒りはまず夫に、つぎに親に、そして集団療法の会に居合わせたメンバーにも向けられた。
こうした事象が起こる原因のひとつは、彼女が「終焉」と「中立圏」の重みを見落としていることだろう。「3人での新生活」という「開始」の局面ばかりに目がいってしまっているのだ。
一方、子どもの誕生を機に終わるものがあるのも事実だ。しばらくは、夫婦ふたりでレストランやコンサートに行くことはできなくなる。そういう気持ちにまだ折り合いがついていないのだろう。彼女は、大きなエネルギーを必要とする「ゼロ歳児の子育て」に突入する前に、「終焉」と「中立圏」での自分の感情に向き合う必要がある。
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