トヨタでは伝統的に “めんどう見”が受け継がれている。“めんどう見”とは、文字通りリーダーや先輩がメンバーや後輩の面倒を見ることである。しかし、トヨタの“めんどう見”はそのレベルに留まらない。トヨタの“めんどう見”は、「成果を出し続けられる強い職場づくりを目指し、メンバー一人ひとりが安心して、いきいきと仕事に取り組むために、信頼関係を築きながらサポートすること」である。つまり、メンバーの技能向上に加え、意識を高めることや問題のケアまで求められているのだ。
この源流を遡ると、1935年に制定された『豊田綱領』に行きつく。『豊田綱領』は、トヨタグループの創始者・豊田佐吉の遺訓をもとにまとめたトヨタの原理原則であり、現在もトヨタグループの精神的支柱となっている。
その遺訓のひとつに「温情友愛の精神を発揮し家庭的美風を作興すべし」という教えがある。「従業員は互いが家族のように信頼し合い、ともに悩みながら打開策を模索していくべきだ」という意味であり、この“家庭的美風”が“めんどう見”の根底に流れている。
先輩は後輩に仕事を教えるだけでなく、社会人として一人前に成長させること。これが、トヨタが考えるリーダーとしての責務である。
異なる背景をもつ人々が集まる協業の現場で、最も重要なのは「人間力」だ。経験や価値観の異なる人たちがともに協力し、新たな価値を生み出すためには、互いの理解が不可欠である。相手を「一緒に働きたい仲間」として信頼関係を結ぶことで互いの能力が発揮され、スピーディーな結果を出すことにつながるからだ。
リーダーには「現場力」も必要だ。トヨタでは現場をまとめる組長や工長は、メンバーたちから“おやじ”と尊敬の心を持って呼ばれてきた。彼らは高技能者であるだけでなく、部下の日々の様子に目を配り、彼らが伸び伸びと集中して働ける環境を整えている。
前副社長の河合満氏は、鍛造部で長年腕を磨いてきた現場のたたき上げだ。2017年に副社長に就任した後も、執務室を鋳造の現場に置き、現場とともにあることを大切にしてきた。2020年、河合氏の肩書は副社長から“おやじ”になった。これは、河合氏が高い技能と人間力を兼ね備えた象徴的なリーダーだという、トヨタの意思表示である。
個人の時代に人間力を持ち出すことは、懐古的に映るかもしれない。しかし、リーダーが果たすべき基本的な役割や行動原理は、そう簡単には変わらない。人間力にあふれた人物は、これからの時代さらに重要になっていくだろう。
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