パワハラ上司を科学する

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パワハラ上司を科学する
出版社
出版日
2023年01月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

31.4パーセント――。過去3年間にパワハラを受けたことのある労働者の割合である(2020年、厚生労働省の調査)。あなたはこの数字を見て、何を思うだろうか。

本書の著者、津野香奈美氏は、パワハラや上司のリーダーシップに関する研究をライフワークとしている。「パワハラをこの世からなくしたい」という強い気持ちから、これまで10年以上にわたり、全国各地の企業や自治体で管理職向けの研修・講演を行ってきたという。

本書の特徴のひとつは、パワハラの定義や発生状況、パワハラ行為者の性格特性までをまとめるだけでなく、パワハラ上司の3つのタイプを提示し、さらには「パワハラ上司にならないための方法」まで提示している点だろう。数々の研究をもとに、まさに多角的に「パワハラ上司を科学」している一冊なのだ。

著者によると、パワハラ上司は「脱線型」「専制型」「放任型」の3タイプに分けられる。特に注目したいのは「放任型」、「最近はなんでもハラスメントと言われてしまうから、部下と積極的に関わらないようにしている」というタイプである。「放任ならばハラスメントは起こらないのでは?」と思う方もいるかもしれないが、放任ゆえ、パワハラを誘発してしまうリスクがあるという。

本書は、今まさにパワハラに苦しむ人から、健全な組織をつくりたい経営層・人事、部下との関わり方に悩む上司まで、多くの人に手に取ってほしい一冊だ。「自分もパワハラ上司になる可能性がある」ということを念頭に置いたうえで、じっくり読み進めてほしい。

著者

津野香奈美(つの かなみ)
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(医学)・博士(保健学)・公衆衛生学修士。和歌山県立医科大学助教・講師、ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を経て、現在神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科准教授。これまで100本以上の原著・総説論文を発表。2014年日本行動医学会奨励賞、2017年日本産業衛生学会若手論文賞、2021年国際行動医学会Early Career Award受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    邪悪な性格特性を持つ人はパワハラ行為者になる危険性も高い。誰かを管理職に登用する際には「目的のためには手段を選ばない傾向がある人」「他者への共感力や良心が異常に欠如している人」「他者を不当に利用したことがある人」は避けるべきだ。この3つの傾向を確認するには、その人と一緒に仕事をしたことのある同僚や部下にヒアリングするとよい。
  • 要点
    2
    上司の感情知能が高いと、上司個人にも、部下にも、組織の成長・発展にも良い影響がある。

要約

なぜパワハラが発生するのか

上司がパワハラをしてしまう理由

国内外のどの研究においても、パワハラの行為者は上司にあたる立場の人であると報告されている。2020年の厚生労働省ハラスメント実態調査でも、パワハラの行為者として最も多かったのは「役員以外の上司」(67.9%)、続いて「会社の幹部(役員)」(24.7%)だった。

なぜ上司はパワハラをしてしまうのか。理由は2つある。まず、管理職になると、ある程度は自分の思い通りになるから。そして、権力を手に入れたり社会的地位が高くなったりすると、人は横柄になる傾向があるからだ。

ある研究では、地位の差によって、人の行動に違いが出るのかを観察した。被験者は社長や役員として、求人募集に応募してきた人との面接を任される。その際、応募者は安定した雇用を希望しているにもかかわらず、近いうちに雇い止めになる可能性が高いことが伝えられる。そのうえで「被験者が応募者に真実を伝えるかどうか」を見たところ、地位が高い役についた被験者ほど、事実を伝えない傾向にあることがわかった。

別の研究では、信号機のない横断歩道で、どのくらいの車が歩行者のために停止するかを調べた。その結果、高級車であるほど、歩行者を無視して走り去る傾向にあった。

パワハラ行為者の性格特性
erhui1979/gettyimages

パワハラ行為者の性格には、どのような特徴があるのだろうか。

ここで注目したいのは「ダークトライアド」という邪悪な性格特性だ。ダークトライアドとは、マキャベリアニズム(マキャベリ主義)、サイコパシー(精神病質)、ナルシシズム(自己愛性傾向)の3つの特性から構成される。

邪悪な性格特性を持つ人はパワハラ行為者になる危険性も高いため、管理職に登用する際には特に注意が必要だ。その人と直接一緒に仕事をしたことのある同僚や後輩、部下にヒアリングをし、次の3点に当てはまる人は登用を避けるべきだ。

(1)目的のためには手段を選ばない傾向がある(マキャベリアニズム)

(2)他者への共感力や良心が異常に欠如している(サイコパシー)

(3)これまでに人をタダ働きさせたり、人の手柄を横取りしたりするなど、他者を不当に利用したことがある(ナルシシズム)

ポイントは、本人と同等もしくは格下の人にどう対応するのかをヒアリングすることだ。その人の本性は、自分より“下”の人への対応に現れる。

パワハラをやめさせるには?

ここまで、人は社会的地位が高くなると横柄になりやすいことと、邪悪な性格特性を持つ人がパワハラ行為者になりやすいことを見てきた。となると、パワハラをやめさせることは不可能なのではないか――。そう思う方もいるかもしれない。だが、パワハラをやめさせることは、決して不可能ではない。ここでは、誰かのパワハラをやめさせたい時、周囲の人が取るべき2つのアクションを紹介する。

1つ目は「パワハラ行為者が、いつの日か自らの行いの邪悪さに気付いてくれるかもしれない」と期待するのをやめること。邪悪な性格特性を持つ人が、やがて自身の行動の愚かさに気付き、改善することはあり得ないと思ったほうがいい。「行為者は、自分の言動が相手にどのようなイメージを与えているのか認識できていないからこそ、パワハラをしている」ことを前提として対応すべきだ。

2つ目は、文書で注意すること。自然と気付くことはないのだから、文書で「それはパワハラである」「それは許されない行為である」と明確に指摘するしかない。最も正式かつインパクトがあるのは懲戒処分だが、それは最後の手段である。

パワハラを引き起こす、3つのタイプの上司

脱線型の上司

パワハラ上司は「脱線型」「専制型」「放任型」の3タイプに分類できる。

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要約公開日 2023.04.14
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