国内外のどの研究においても、パワハラの行為者は上司にあたる立場の人であると報告されている。2020年の厚生労働省ハラスメント実態調査でも、パワハラの行為者として最も多かったのは「役員以外の上司」(67.9%)、続いて「会社の幹部(役員)」(24.7%)だった。
なぜ上司はパワハラをしてしまうのか。理由は2つある。まず、管理職になると、ある程度は自分の思い通りになるから。そして、権力を手に入れたり社会的地位が高くなったりすると、人は横柄になる傾向があるからだ。
ある研究では、地位の差によって、人の行動に違いが出るのかを観察した。被験者は社長や役員として、求人募集に応募してきた人との面接を任される。その際、応募者は安定した雇用を希望しているにもかかわらず、近いうちに雇い止めになる可能性が高いことが伝えられる。そのうえで「被験者が応募者に真実を伝えるかどうか」を見たところ、地位が高い役についた被験者ほど、事実を伝えない傾向にあることがわかった。
別の研究では、信号機のない横断歩道で、どのくらいの車が歩行者のために停止するかを調べた。その結果、高級車であるほど、歩行者を無視して走り去る傾向にあった。
パワハラ行為者の性格には、どのような特徴があるのだろうか。
ここで注目したいのは「ダークトライアド」という邪悪な性格特性だ。ダークトライアドとは、マキャベリアニズム(マキャベリ主義)、サイコパシー(精神病質)、ナルシシズム(自己愛性傾向)の3つの特性から構成される。
邪悪な性格特性を持つ人はパワハラ行為者になる危険性も高いため、管理職に登用する際には特に注意が必要だ。その人と直接一緒に仕事をしたことのある同僚や後輩、部下にヒアリングをし、次の3点に当てはまる人は登用を避けるべきだ。
(1)目的のためには手段を選ばない傾向がある(マキャベリアニズム)
(2)他者への共感力や良心が異常に欠如している(サイコパシー)
(3)これまでに人をタダ働きさせたり、人の手柄を横取りしたりするなど、他者を不当に利用したことがある(ナルシシズム)
ポイントは、本人と同等もしくは格下の人にどう対応するのかをヒアリングすることだ。その人の本性は、自分より“下”の人への対応に現れる。
ここまで、人は社会的地位が高くなると横柄になりやすいことと、邪悪な性格特性を持つ人がパワハラ行為者になりやすいことを見てきた。となると、パワハラをやめさせることは不可能なのではないか――。そう思う方もいるかもしれない。だが、パワハラをやめさせることは、決して不可能ではない。ここでは、誰かのパワハラをやめさせたい時、周囲の人が取るべき2つのアクションを紹介する。
1つ目は「パワハラ行為者が、いつの日か自らの行いの邪悪さに気付いてくれるかもしれない」と期待するのをやめること。邪悪な性格特性を持つ人が、やがて自身の行動の愚かさに気付き、改善することはあり得ないと思ったほうがいい。「行為者は、自分の言動が相手にどのようなイメージを与えているのか認識できていないからこそ、パワハラをしている」ことを前提として対応すべきだ。
2つ目は、文書で注意すること。自然と気付くことはないのだから、文書で「それはパワハラである」「それは許されない行為である」と明確に指摘するしかない。最も正式かつインパクトがあるのは懲戒処分だが、それは最後の手段である。
パワハラ上司は「脱線型」「専制型」「放任型」の3タイプに分類できる。
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