「企業は企業価値拡大という目的を果たさねばならない。そのためにはコーポレートファイナンス理論を勉強し、企業価値拡大の方法を学ぶ必要がある」
よく見聞するこうした言説に、多くの人はさして疑問を持たないのではないだろうか。しかし、「この初期設定がそもそも間違っている」というのが本書の中心的な問題意識だ。
本来コーポレートファイナンス理論が教えることは「仮に企業の目的がその価値の拡大にあるとしたら、企業はどのような行動を取るだろうか」という論理の道筋だ。企業価値拡大の実践的ハウツウを提供する学問ではない。
将来なにが起きるかをだれも予知できず、だれもがその不確実性に不安を抱きながら決断を下す。その決断と行動をどのように評価すべきか――。そのような果てしなく膨大な思考過程を説明するため、時としてさまざまな二律背反を相克しながら、コーポレートファイナンス理論は体系づけられている。
企業の行動に関するミステリーを、主にミクロ経済学を応用して解明しようとする学問。それがコーポレートファイナンス理論だ。
「価値とはなにか」「そもそも企業とはなんであるのか」といった根本的なところから、本書は丁寧に解きほぐしていく。
「株式会社」という組織の現場は、緊張感と喜怒哀楽に包まれている。なにかに追われているかのように毎年利益を求め続け、組織の一員は仕事がうまくいけば、時に傲慢になり、うまくいかなければ自信を喪失する。株式会社をそうしたテンションの高い組織に駆り立てるものは「資本」という存在だ。
商売の元手となったおカネである資本が最終的に増えたかどうか、それが株式会社の成果だ。もし会社が期待されていた以上に資本を増やしたら、その分が会社によって生まれた価値として称賛される。そして、多くの資本がその会社に押し寄せ、商売を大きくできる。それが株式会社という説話原型だ。
企業が行う事業の不確実性(リスク)を、年率〇〇%と具体的な数値で表したものが資本コストである。
3,400冊以上の要約が楽しめる