『サピエンス全史』のおもしろさの一因は、あえて単純な筋立てでストーリーを展開している点にある。人間を人間たらしめた3つの革命(認知革命、農業革命、科学革命)の観点から、非常に長い期間の歴史をすっきりと理解できるようになっている。とりわけ重要なのは最初の7万年前に起こった「認知革命」である。フィクション、つまり存在しないものを信じる能力によって、人間固有の大規模な社会的協力が可能になったという。
フィクションを軸に人間の歴史を総括するこの本が大きな反響を呼んだのは、ここ数年で私たちが「フィクションのフィクション性」を痛感しているからではないだろうか。近代社会を支えてきた制度や規範、理念も、ハラリの立論の中ではフィクションと見なされる。ブレグジットがEUの理念に疑義を呈し、トランプ現象が米国大統領への幻想を崩壊させた。また、フェイクニュースやイスラム国の問題は、ある人にとっての確固とした生きる理由が、他の人にとってはフィクションでしかないという、フィクションの両義性を表していると言えよう。
内容について言えば、これは一般人に向けて書かれた真にグローバルなホモ・サピエンスの歴史書である。これまでの歴史学は、ヨーロッパ中心主義的で男性中心主義的であり、さらにいえば人間中心主義であった。『サピエンス全史』は人間の歴史を世界大、地球大で捉えようと試み、動物の権利や幸福についても言及している。少々うがった見方かもしれないが、ハラリは科学の言葉で書かれた新しい聖書をめざしたのではないかと思える。今まさに、私たちはこういう「フィクション」を求めていたのだろう。
ハラリは一貫して客観的でクールな態度で歴史を叙述し、歴史は人間のために動くわけではないと提示した。しかし、本書の最後では「私たちは何を望みたいのか?」というホットな問いを投げかける。
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