ESG格差

沈む日本とグローバル荘園の繁栄
未読
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出版社
日本経済新聞出版

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出版日
2023年01月25日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

目が見開かされるような示唆に富み、読み応えのある本。これが、要約者が本書を読み切ったときに抱いた印象である。ESGは「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の頭文字であり、企業に対してこの3つの視点に沿った活動を求める動きを指す。

本書によると、日本ではESGよりSDGsという言葉が広がっているが、主要先進国ではそれほど使われていないという。むしろこれらの国ではESGという言い方が主流である。

ビジネスの世界でも、持続可能性という思想を、国際的な社会経済の文脈から主体的に活用していく姿勢はますます重要になっている。著者たちは、ESGがもたらす社会変革と、それに伴う国家・企業・個人の分断や格差といった本質的な影響をあぶり出していく。ESGの議論は今後どこへ向かうのか、日本政府や企業はESGを戦略的に活用できるのか。こうしたテーマに関する著者たちならではの視点は圧巻だ。さらには、コロナ禍やロシア・ウクライナ紛争を踏まえた直近の動向についても理解を深められる。

要約者は、ESG視点で国際的な社会変容を観察する重要性をひしひしと感じた。ESGが企業の経営戦略や個人のライフスタイルに及ぼす影響について考えを深めることは、今後どんな職種のビジネスパーソンにとっても欠かせないといえる。そのための視座を与えてくれる本書を、ぜひともおすすめしたい。

ライター画像
たばたま

著者

松岡真宏(まつおか まさひろ)
フロンティア・マネジメント 代表取締役
東京大学経済学部卒業。外資系証券などで証券アナリストとして活動。2003年産業再生機構に入社し、カネボウとダイエーの再生計画を担当。2007年にフロンティア・マネジメントを大西正一郎氏と共同設立し、代表取締役に就任。同社は東証プライム上場の独立系経営コンサルティング・M&Aアドバイザリー会社へと成長した。著書に『時間資本主義の時代』『持たざる経営の虚実』(日本経済新聞出版)ほか。

山手剛人(やまて たけと)
フロンティア・マネジメント マネージング・ディレクター企業価値戦略部長
東京大学経済学部卒業。UBS証券で小売セクター担当のアナリストとして活動し、2010年クレディ・スイス証券に移り、小売セクター担当アナリスト兼消費産業調査グループリーダー。2017年にフロンティア・マネジメントに入社し、2022年より現職。共著に『宅配がなくなる日』(日本経済新聞出版)。

首藤繭子(しゅとう まゆこ)
フロンティア・マネジメント マネージング・ディレクター
慶應義塾大学法学部政治学科およびスタンフォード大学ビジネススクール(MBA)卒業。2001年UBS証券に入社し、株式調査部に配属。ブーズ・アレン・ハミルトン(現 PwC Strategy&)米国本社および日本支社、日産自動車グローバル本社・香港支社で勤務後、ガラパゴスの執行役員を経て、2021年フロンティア・マネジメント入社。

本書の要点

  • 要点
    1
    ESGの推進は、地球環境や社会的弱者にシワ寄せされていたものを、企業や消費者がコストとして内部化することで肩代わりする取り組みである。
  • 要点
    2
    機関投資家が巨額の資産運用によって、ESGを強く牽引している。ESGの取り組みが進むことで、国家・企業・個人における分断が進んでいく面もある。
  • 要点
    3
    ESGをどう戦略的に活用していくべきかを考えることが、国家・企業・ビジネスパーソンそれぞれに求められている。競争戦略の視点では、中小・地方企業こそ、ESG対応の加速により、グローバルな大企業と取引できる可能性も生まれてくる。

要約

【必読ポイント!】 ESGは誰のためにあるのか

ESGがもたらすグリーンフレーション

世界経済は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とした世界的なインフレの脅威にさらされている。長らくデフレ経済に慣れてきた日本の消費者も例外ではない。人々は電気代、ガソリン、食品などの相次ぐ値上げに窮している。

世界インフレと各国の金融政策が混迷を極めるなか、ESG、特に「E(環境:Environment)」の推進に伴う慢性的なインフレ効果は、環境を意味する「グリーン」と「インフレーション」を掛け合わせて、「グリーンフレーション」と呼ばれる。ESG最大のアジェンダである気候変動リスクとその原因とされる温室効果ガス排出量の削減、いわゆる脱炭素化の動きがエネルギー価格を上昇させ、世界インフレに拍車をかけるのだ。

「S(社会:Social)」に関しても、人権の観点から取引先を変更したり、従業員の労働環境や報酬の改善に取り組んだりすることで、サプライチェーン全体でのコスト増加は避けられない。

「G(ガバナンス:Governance)」も、コーポレートガバナンスやリスク管理のために、新たな委員会や部署の整備、社外取締役などへの専門家の雇用が必要となり、企業のコストを引き上げる。

ESGの推進は、従来であれば地球環境や社会的弱者にシワ寄せされていた「外部不経済」が、企業や消費者が払うコストとして内部化されるプロセスにほかならない。

このように、現在の世界インフレは、世界経済の分断、各国金融政策の不協和、ESGによるグリーンフレーションという3つの要素が複雑に絡み合って進行している。

ウォール街のエリートが生んだESG
deberarr/gettyimages

ESGという頭文字が初めて世界に登場したのは、2003年に国連環境計画・金融イニシアティブが発表したレポートである。この中でESG問題が機関投資家のポートフォリオに与える影響について考察されている。

ESGとの理論的背景を構築したのは、地球環境の研究者でも環境活動家でもない。PRI(国連責任投資原則)を練り上げて賛同者を募った証券会社や機関投資家といった、ウォール街のエリートたちである。その主たる目的は資産運用パフォーマンスの向上であり、地球環境や人権保護はその手段にすぎなかった。そして、「G(ガバナンス)」も資産運用パフォーマンスを向上させるテーマの1つとして組みこまれたのだ。

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要約公開日 2023.05.04
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