世界経済は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とした世界的なインフレの脅威にさらされている。長らくデフレ経済に慣れてきた日本の消費者も例外ではない。人々は電気代、ガソリン、食品などの相次ぐ値上げに窮している。
世界インフレと各国の金融政策が混迷を極めるなか、ESG、特に「E(環境:Environment)」の推進に伴う慢性的なインフレ効果は、環境を意味する「グリーン」と「インフレーション」を掛け合わせて、「グリーンフレーション」と呼ばれる。ESG最大のアジェンダである気候変動リスクとその原因とされる温室効果ガス排出量の削減、いわゆる脱炭素化の動きがエネルギー価格を上昇させ、世界インフレに拍車をかけるのだ。
「S(社会:Social)」に関しても、人権の観点から取引先を変更したり、従業員の労働環境や報酬の改善に取り組んだりすることで、サプライチェーン全体でのコスト増加は避けられない。
「G(ガバナンス:Governance)」も、コーポレートガバナンスやリスク管理のために、新たな委員会や部署の整備、社外取締役などへの専門家の雇用が必要となり、企業のコストを引き上げる。
ESGの推進は、従来であれば地球環境や社会的弱者にシワ寄せされていた「外部不経済」が、企業や消費者が払うコストとして内部化されるプロセスにほかならない。
このように、現在の世界インフレは、世界経済の分断、各国金融政策の不協和、ESGによるグリーンフレーションという3つの要素が複雑に絡み合って進行している。
ESGという頭文字が初めて世界に登場したのは、2003年に国連環境計画・金融イニシアティブが発表したレポートである。この中でESG問題が機関投資家のポートフォリオに与える影響について考察されている。
ESGとの理論的背景を構築したのは、地球環境の研究者でも環境活動家でもない。PRI(国連責任投資原則)を練り上げて賛同者を募った証券会社や機関投資家といった、ウォール街のエリートたちである。その主たる目的は資産運用パフォーマンスの向上であり、地球環境や人権保護はその手段にすぎなかった。そして、「G(ガバナンス)」も資産運用パフォーマンスを向上させるテーマの1つとして組みこまれたのだ。
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