今はない新しい商品やサービスを考える際によく参照されるのは、シンクタンクなどが発行している未来予測レポートである。これは現在からの積み上げであるため、短期的にはその通りの未来が訪れる可能性が高く、手堅くアイデアを考えるためには有効だ。
しかし、イノベーションには常識を打ち破るようなアイデアが求められ、そこでは個人の空想が重要な鍵を握る。空想が身近になることで、ありふれていたはずのもの、見慣れていたはずのものが全く別のものに見え始め、物事を別の視点で見る力や、相手の事情、背景などを想像できる力を養うことができるためである。
日本のビジネスシーンでは、空想は意味のないこと、無駄なことなどとネガティブに捉えられがちだ。しかし、スティーブ・ジョブズ氏によるiPhoneやジェフ・ベゾス氏によるAmazonなどの例に見られるように、世界を変える新しい商品やサービスのアイデアは個人の空想の中に眠っている。
一見すると荒唐無稽に思えるような空想も、日常的に繰り返し、周囲の人たちと互いに刺激を与え合うことにより、精度を上げられるのだ。空想は、ジョブズ氏のような特別な人だけに許されたものではなく、誰が行ってもいい。むしろ日本人は、マンガやアニメ、ゲームなど、空想が身近にある環境で育つ、いわば「空想ネイティブ」なのである。
また、空想やアイデア発想、創作において効いてくる要素は、経験や知識や教養だ。そのため、それらを持っている大人が常識やルールの固定観念から解放されれば、おもしろいものを生み出せる可能性は大人の方が高い。今や自らの作品が受賞したり、映画化されたりしているような著者自身も、以前は読書も作文も国語も苦手だったという。
頭の中に漠然と湧き起こる空想は、言語化することで、考えを人に伝えやすくなる。また、それによって空想を客観的に眺められるようになる。
さらに、空想やそこから生まれたアイデアを、物語にすることが大切だ。なぜなら、空想の水準にはばらつきがあって荒削りであることも多く、いざ実現しようとしても不発に終わってしまうリスクがあるからである。
空想を物語にすることで、空想を真剣に掘り下げ、考えを深めることができる。物語の行間にはさらなる空想の余地も生まれ、それを読んだ人の想像から派生の空想が生まれやすくなる。
加えて、空想をヒントに考えたアイデアを物語にすることで、アイデアを現実世界に落とし込み、強度を高めることができる。アイデアを客観的に眺められるようになるので、コストをかけずにアイデアの持つ可能性をシミュレーションでき、実現に向けて踏み込んだ議論ができる。
そして、空想やアイデアを物語にするには、ショートショートという形式がオススメだ。ショートショートとは、「アイデアとそれを活かした印象的な結末のある物語」であり、1話5〜10分程度で読めるボリュームのものである。作品に何らかのアイデアが含まれているかどうか、さらにはそのアイデアをうまく活用した印象に残る結末になっているかどうかがショートショートの特性である。
ショートショートはワンアイデアを重視する形式で、執筆に要する時間も短い。すぐに読めるため、他者と物語を共有しやすい。また、読み手の想像を喚起しやすい省略の文学のため、ビジネスにおける空想に有用な形式であるといえる。
大切なのは、まずは考えていることを物語にしてみるということで、そのためにショートショートの自由さは追い風になる。ビジネスシーンでは、そこからいかに現実世界に活かせそうなヒントを見出すかが重要である。
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