生きるための哲学

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生きるための哲学
出版社
河出書房新社

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出版日
2016年11月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

生きるための哲学など必要ない人は幸福である。

これは、本書の紹介の冒頭にあてられた一文である。ここでいう生きるための哲学とは、学問としての哲学ではなく現実の困難を生きる人の中に生じた哲学のことだ。絶望の中で、なお生き抜こうとして見出された哲学は、少なくとも一人の人間を実際に救い、希望へと導いた哲学である。その意味では、人生の危機に立ち向かう人にとって本当に必要とされる哲学であると同時に、なるほど必要としない人のほうが幸福であるのかもしれない。

精神科医として豊富な臨床経験をもつ岡田尊司は、本書でさまざまな人の試行錯誤から、彼らの生きるための哲学を提示する。苦難に直面し、ときに生きることを諦めそうにまでなった人たちは、いかにして絶望し、そこから回復するに至ったのか。幼少期に負った心の傷を補うのは一筋縄ではいかず、長年の癒しや大きな代償が必要なときさえある。

扱われる事例は痛々しいほどに生々しい。しかし、読後感には不思議と悲壮感がなく、人生の温かみが感じられる。それは、著者の誠実な眼差しと、絶望してもなお希望を見出し生きようとする人たちの強さによるものだろう。「生きづらさ」を抱えるすべての人へ向けて書かれた本書の哲学は、読者が自分なりの生きるための哲学を育み、自分らしく生き抜くための手がかりを与えてくれる。

ライター画像
池田友美

著者

岡田尊司(おかだ たかし)
1960年、香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医学教室にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院に勤務。2013年から岡田クリニック院長(大阪府枚方市)。日本心理教育センター顧問。パーソナリティ障害、発達障害治療の最前線に立ち、臨床医として現代人の心の問題に向き合い続けている。2016年、作田明賞受賞。『愛着障害』、『母という病』、『人間アレルギー』、『夫婦という病』他著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    正解のない問題に自分なりの答えを出そうするところに、哲学という営みが表れる。そこで求められるのは、ぎりぎり生存を支えるための、生きるための哲学だ。
  • 要点
    2
    『車輪の下』で有名なヘルマン・ヘッセは、両親の期待通りの人生を歩むことができず、罪悪感と自己否定を抱えていた。お互いが安全基地になることのできる妻との出会いが、ヘッセの人生の後半を充実したものにした。
  • 要点
    3
    サマセット・モームの自伝的な長編小説『人間の絆』の主人公フィリップには、モームの境遇が反映されている。フィリップにとっては「人生に意味などない」という悟りが救いとなった。

要約

【必読ポイント!】 生きるための哲学

生きづらさを抱えた人に
Jorm Sangsorn/gettyimages

困難な時代の中、生きづらさを抱える人が増えている。普段は元気な人でも、理不尽な仕打ちを受ければ苦しみにとらわれる。もっと根深い問題を抱え、生きることの虚しさや無意味さにさいなまれている人もいるはずだ。

答えが出せない問題に向き合っていたとしても、決断をせずにすませることができないのが人生というものだ。苦しさをどう受け止めるかを考え、生き抜こうとするとき、人は正解のない問題に自分なりの答えを出そうとしている。これこそが、哲学という営みだ。そこで求められるのは、学問としての哲学ではなく、もっと切実に、ぎりぎり生存を支えるための、生きるための哲学だ。誰であれ、生きるために哲学を必要とする。哲学とは無縁に生きている人も、生きるための哲学をもっている。

たとえば、どうせ死ぬのに生きる意味は何かという問いには、合理的な正解や科学的な答えはない。ウィトゲンシュタインは「語ることが不可能なことに、人は沈黙しなければならない」という言葉を遺したが、哲学という学問は今や人生の問題に沈黙せざるを得ないのである。死にたいという人間を合理的な理由で説得することはできない。だからと言って、何を言っても仕方ないと沈黙するわけにもいかない。答えの出ない問題に自分なりの答えを信じてぶつかっていく、その切なる信念と行動にこそ、本来の哲学がある。

本書においては、生きづらさを抱え、苦難や理不尽に直面しながらも生き抜こうとした人たちの試行錯誤と、それがたどり着いた叡智を描き出したい。これから提示するのは、誰かの実人生に生じた苦悩から見出された、少なくとも一人の人間を救った哲学だ。これらとの出会いが、生きづらさを超えて自分らしく生き抜くための勇気と指針を見つける手がかりになることを祈っている。

自己否定や罪悪感に悩む人に

家を追われた少年ヘッセ

『車輪の下』や『ガラス玉演戯』などで知られる作家のヘルマン・ヘッセの青年時代は危ういバランスで成り立っていた。何度も自殺の誘惑に駆られては親を慌てさせ、中年期にも何度か強い自殺願望にとらわれた。死への誘惑を克服したのは、50歳を迎えて以降だった。彼はなぜ生きづらさと苦悩を抱え、いかにして生き延びることができたのか。彼の生きるための哲学を見ていこう。

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要約公開日 2023.07.13
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