脳は、情報を整理する時間を必要とする。翌日のプレゼン内容や前日に知ったおいしいケーキのレシピなど、脳には重要だと思われる情報が蓄積されている。一方、朝にゴミ箱に捨てたものや帰宅してコートをどこに置いたかなど、とるにたらない情報は整理され、削除することで、新たな情報のための空きスペースを確保しなければならない。換言すれば、起きている間に生じるコストを睡眠で精算していることになる。起きるためには眠らなければならない。脳は睡眠中、廃棄物を大量に排出することで清掃を行う。睡眠を十分にとらなければ、脳の老化は早まり、ダメージを受けやすくなる。
また、睡眠は脳以外の消化器や循環器などが機能するためにも重要だ。睡眠をとることにより、細胞が再生し、修復される。覚醒時と比較して有害な細菌やウイルスにさらされるリスクが低い睡眠中は、免疫システムは体の健康を保つための任務に専念しやすいのだ。
研究では、成人で7~9時間の睡眠をとる場合に、有病率が最も低くなると明らかになっている。とはいえ、重要なのは睡眠の時間ではなく質であり、質を高めることで脳機能と免疫システムを円滑に働かせ、健康維持に資するものとなる。
睡眠不足が短期間でも続けば、遺伝子や細胞にエピジェネティック変異が起こる可能性がある。ある実験によれば、たった一晩十分な睡眠をとらなかっただけで、筋肉と脂肪組織にエピジェネティック変異が見られたという。変異があったのは「時計タンパク質」と呼ばれ、睡眠や覚醒リズムとともに、代謝や細胞が持つ機能をコントロールしている物質だ。睡眠が十分でないと、時計タンパク質の生産と24時間のリズムの間にずれが生まれ、代謝障害につながり、肥満や2型糖尿病のリスクを高める可能性がある。
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