イマココ

渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学
未読
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渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学
未読
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出版社
出版日
2010年04月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

みなさんは、道に迷った経験があるだろうか。自分の位置を見失い、目的地までの道がわからなくなったことがあるという人は少なくないだろう。

一方、ほかの動物はどうか。伝書バトは、暗い箱に入れたまま遠くの街に運ばれて放されても、迷わず家に帰ることができる。生まれたばかりのウミガメは、深い海を何千キロも泳いで、エサの豊富な海岸にたどり着くという。

地図を作り、人工衛星を打ち上げ、GPSを用いてあらゆる人や乗り物をナビゲートする技術を持った人間が、なぜ近所の道で簡単に迷ってしまうのか。

本書は、そんな素朴な疑問を出発点に、人間とほかの動物の認知能力の違いについて、認知科学の第一人者である著者がわかりやすく解説している。

自分が今いる場所を「外」から認識できるという特有の能力を生かし、人間は周囲の物理的空間を自由に作り上げてきた。家を居心地よく整え、住みよい街を設計し、ついにはサイバースペースという新たな空間を生み出して、物理的な距離の制約を越えてコミュニケーションできるようになった。

一方で、この能力を利用して、人間が地球の未来を危うくするようなことを行っているのも事実だ。人間独自の空間認知のしくみを知ることは、私たちの「現在地」を知ること。そして「目的地」を確認することにもつながる。本書を通じ、あらためて自分を取り巻く世界を見つめ直してみてはいかがだろうか。

ライター画像
髙橋三保子

著者

コリン・エラード
1958年ロンドン生まれ。ウェスタン・オンタリオ大学で博士号(心理学)を取得し、現在カナダ・ウォータールー大学実体験型バーチャル環境研究所(RELIVE)所長。専門は認知科学・実験心理学。バーチャルリアリティ・プログラムを用いたナビゲーション研究の第一人者として著名で、認知科学の検知から建築空間や都市の設計に助言を行っている。

本書の要点

  • 要点
    1
    アリやハトのような動物は、目印を記憶したり、特殊な感覚を組み合わせたりして使うことで、目的地までの道を見つけている。
  • 要点
    2
    人間であっても、北極や砂漠など極限状況で暮らしている人々は、周囲のわずかなシグナルを感知できるようになる。だが、現代人は自然とのつながりが断ち切られ、こうしたスキルを失っている。
  • 要点
    3
    現実を「外」から眺められる能力が、人間の空間認知の最大の特徴である。この能力を駆使して、人類は都市計画から光速コミュニケーション技術まで、周囲の物理的空間を自由につくりあげてきた。

要約

なぜ人は道に迷うのか

人間の方向感覚は、他の動物に比べ未熟である
gpointstudio/iStock/Thinkstock

道に迷った経験がない人は、とても珍しいのではないだろうか。小さいとき、買い物をしていた両親とはぐれてしまったり、遠足のときに同級生たちと歩いていたはずなのに、いつの間にか違う場所へ迷い込んでしまったり、という経験が、だれしもあるのではないだろうか。

人間は、空や海の広さを理解し、高度な測定器で測って地図を作り、人工衛星を打ち上げて飛行機や自動車をナビゲートすることもできる。しかし、小さな森でいとも簡単に迷子になってしまう。あなたは、都会生活に慣れ過ぎた人間が、本来備わっていた方向感覚を失ったのだ、と想像するだろうか。しかし、じつは人間の方向感覚は、もともと他の動物に比べて未熟だということが、研究によって明らかになっている。

森に棲むクマは、何百キロも離れた自分の巣に戻ることができる。渡り鳥も、何千キロも離れた目的地へ旅をする。人間は、そうしたナビゲーション能力の秘密を探ることはできるけれども、近所でいとも簡単に迷ってしまう。

まずは、人間を含む生き物が、空間にまつわるどんな情報を得て、どのように道を探し出すのか、挙げてみたい。

ランドマークを探す

目印をたよりに巣を探すハチ

位置を示す、という文字通りの意味の「ランドマーク」を使って、動物が自分の居場所を判断する研究を初めて行ったのが、ニコラス・ティンバーゲンだ。

ティンバーゲンが観察したジガバチは、地中の小さな巣に、幼虫に食べさせるための昆虫を運び込む。そのために、何度も出かけては戻り、見えにくい巣の入り口を探すことになる。

ティンバーゲンが、ハチの巣の周囲にあったものを動かしてしまったところ、戻ってきたハチは入口を見失ってしまった。さらに、巣の周囲のものをどけて、松ぼっくりで入口をぐるりと囲むと、ハチの混乱が収まったころに松ぼっくりを別の場所へ移した。戻ってきたハチは、移動させた松ぼっくりの輪の中心近くを飛んでいた。

昆虫の認知能力はたいへん高い。飛ぶ昆虫の類は、後で戻るつもりの場所を発つとき、その場所に顔を向けて、何度も下向きに弧を描いて飛行する。位置の周りにあるものをランドマークとして記憶するためだ。そして、その記憶をたよりに戻ってくる。

目印を言葉に託す人間
jamenpercy/iStock/Thinkstock

イヌイットたちも、ナビゲーションに関する卓越した能力を持っているが、彼らもランドマークを使っている。苛酷な土地で生き残るために、彼らは物体や景色を観察する能力を磨きあげた。

彼らの言語には、土地を説明する、方向性や大きさを含んだじつに豊かな語彙が使われている。また、炉辺で語られる一族の物語には、土地や、その景色のことが織り込まれている。言葉や物語という形で、位置を記憶するのだ。

また、イヌクシュクという大きなランドマークは、彼らがナビゲーション能力を発揮する際に欠かせないものだ。それは、人間の形をした石の建造物で、高台に建てられており、その腕が人の住むところや釣り場を示している。道しるべや、狩猟の助けになり、その像は離れたところに住む家族の象徴としての意味合いも持つ。本来は道を知るために作られたものだが、それ以上の文化的な役割を、イヌクシュクは背負っている。

オーストラリアの原住民アボリジニーも、生き抜くために、土地を記憶するための術を編み出していた。

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要約公開日 2014.12.26
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