本書の1章の最初のトピックは、「レトロ技術でどこまで冷える?」という副題がついた「天然のウォータークーラー」についてである。温度帯は、常温から14℃と、ものすごく低いといえるほど低い温度ではないが、飲食物を冷やす技術が3000年以上も前のエジプトで用いられていたというのだから驚きである。
その方法では、驚くほどシンプルに、何らエネルギーの入力を必要とせず、常温よりも温度を下げることができる。エジプトなどの路上で見かける素焼きの壺「ジィール」をご存じだろうか。これに水を入れると、器の表面を通して内部の水が絶えず外側にしみ出していく。しみ出した水は蒸発し、その時に熱を奪い内部の水を冷やすというしくみである。
0~50℃の水では約570~600kcal/kgの蒸発潜熱(水が気化するときに必要なエネルギー)がある。つまり、水が蒸発して気体になるときに気化熱を奪う。どの程度冷えるかというと、器の壁を通して外部との熱のやり取りがないという条件下では、50℃の水1kgから100gの水が蒸発した時点で0℃の氷ができるという計算になる。実際には、外部からの熱侵入があって下がった温度を維持できなかったり、蒸発により周辺の湿度が高くなり、それがさらなる蒸発の抵抗となったりと、速やかな冷却はなかなか実現できない。
が、エジプトの寺院に残る3000年以上も前に描かれた壁画には、貯蔵壺を奴隷が大きなうちわで扇ぐ姿があり、蒸発を強く促すことで、より低い温度にしようとしていた様子がうかがえる。人々が気化熱の原理まで理解していたとは思い難いが、3000年も前に、この現象を利用していたというのは興味深い。
最近では、二重の素焼きの壺の間にぬれた土を入れて、内側の壺には食料を入れて冷やす「ポット・イン・ポット」が考案されており、暑い中でも14℃まで冷えたという報告があるという。
季節によって旬がある生鮮食品であっても、冷凍保存しておくことでいつでも食べることができる時代になった。いつでも食べられるという手軽さはあるが、冷凍・解凍を経た食品は、一般的には品質や食感が落ちるといわれている。
このトピックでは、冷凍前と解凍後の食品の状態は、特に冷凍・解凍の速度の違いによって差が出ることを解説している。どのように冷凍・解凍することが品質を保つうえで重要なのか、その原理を知ることで、よりおいしく食品を食べられるようになるはずだ。
野菜や肉、魚などの食品はそのほとんどが細胞の集合体であり、冷凍するということは、これら細胞の一つひとつが凍結することを意味する。それについて考えるには、まず、食品を構成する細胞スケールの微視的な凍結について注目し、変化を見る必要がある。
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