生き物は長い時間をかけて、遺伝子の配列情報を変化させ、少しずつ性質の異なった生物に変化していく。これを進化といい、例えばチンパンジーとヒトは共通の祖先から出発して500万年ほどかけて現代までの姿になっていると言われている。
このように外側の形質にまで変化がわかるような進化には、長い年月がかかるのが通常だ。しかし、短い時間でも見た目が変わってくる例もある。毛色はその典型例であり、ネコの毛色の多様化は人の手が介入した結果の変化である。すなわち毛色が少し変化したネコをわざわざ選んで残して子孫をつくらせ、その変化を蓄積してきた。自然界ではウマに白馬、栗毛、芦毛、黒毛などが存在するぐらいで、シマウマやライオン、キリンなどのように、同じ種内であれば毛色の違いはほとんど見られないのが通常だ。
現在では、シャムネコやペルシャネコなどさまざまな品種のネコがいる。およそ100年前ごろから、ネコのブリーダーによってペットとして喜ばれる独特の体型や毛色を持つさまざまなネコが創りだされ、品種として確立されてきた。これらは生物学的にはイエネコと呼ばれ、野生のリビアヤマネコを家畜化したものとされている。その先祖は同じである。
我々はDNA配列を用いてネコの品種の親戚関係を推定することができる。アビシニアンの変異としてソマリが、またアメリカンショートヘアの突然変異としてアメリカンワイヤーヘアが生まれたとされている例は、DNA配列的にも証明されている。
ネコのブリーダーたちによる品種改良の結果とこれまでの遺伝学の研究により、ネコの毛色を司る遺伝子としては、w、o、A、B、C、D、T、i、sの9種類が知られている。また、毛の長さを決めているL遺伝子と呼ばれるものもある。
キジネコ、茶トラ、黒ネコ、ぶちネコなど、さまざまな毛色のネコがいる。黒っぽい茶色の縦縞の入った毛色をもつキジネコが、家畜化される前の元々の毛色である。ここからは5種類の遺伝子の事例を取り上げる。
A遺伝子は黒ネコをつくる遺伝子だ。
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