定理が生まれる

天才数学者の思索と生活
未読
定理が生まれる
定理が生まれる
天才数学者の思索と生活
未読
定理が生まれる
出版社
早川書房
出版日
2014年04月20日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

中学校、高等学校、大学。日本にはあらゆる教育機関で数学を学ぶ機会がある。教科書の内容を思い出してみてほしい。そこにはアルファベットやギリシャ文字で描かれた美しい定理が記載されていたはずだ。定理とは、数学における証明された真なる命題のことを指す。例えば、直角三角形の辺の長さを示す定理は、「平面幾何における直角三角形の斜辺をc、他の二辺をa、bとするとc^2=a^2+b^2が成立する」、というものだ。これは、「ピタゴラスの定理」として知られている。これらの定理を必要であれば思い出し、試験で用いて活用したのが数学という教科だ。単純な暗記型のインプットとアウトプット。確かに学生の内はこれで良いのかもしれない。しかし、実社会ではそうはいかない。

数学の教科書には美しい形で記載されている定理であるが、その定理が証明された背景を知る機会は少ないだろう。なぜなら、受験には必要がなく、かつ数学の教科書に記載する意味がないからだ。しかし、定理が出来上がるまでのプロセス、思考過程にこそ、学ぶべき点が多くある。

本書の著者である数学者、セドリック・ヴィラーニ氏は「意外なほどに」人間らしい。この本は、若干28歳の若さでリヨン高等師範学校数学教授になり、2010年には数学のノーベル賞とも称されるフィールズ賞を受賞した天才数学者が、「新しい定理」を生み出すまでの紆余曲折を描いた「定理の裏側にある天才数学者の告白」であり、ドキュメンタリーなのである。

著者

セドリック・ヴィラーニ
1973年生まれ。弱冠28歳でリヨン高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリウール)数学教授に。ペコ=ヴィモン賞、欧州数学会賞、フェルマー賞、ジャック・エルブランド賞(フランス科学アカデミー)、ポアンカレ賞など数々の数学賞を受賞、2010年に「非線形ランダウ減衰とボルツマン方程式の平衡状態への収束に関する証明」によりフィールズ賞を受賞。現在リヨン第1大学数学教授およびポアンカレ研究所所長。

本書の要点

  • 要点
    1
    数学者といえども、その実体は意外と人間らしい。
  • 要点
    2
    我々が解く数学の問題には必ず解が存在するが、数学者が解く問題には解が存在するとは限らない。
  • 要点
    3
    数学においても、解のない問題に取り組むときは、解を導きだすための仮説を立てた上で、さらにチームを組み議論し合うことが近道となる。
  • 要点
    4
    良質なアウトプットを出すためには、スピード感をもってコンスタントに考えを吐き出さなければならない。
  • 要点
    5
    メール1通にも、数学者たちは凝縮した思考結果を込める。

要約

数学者の日常

poiremolle/iStock/Thinkstock
数学者は意外なほど人間的だった

本書を手に取られたのであれば、まず282ページを見てほしい。ここに本書の主人公であり、著者であるセドリック・ヴィラーニ氏とクレマン・ムオ氏が証明した新しい公式が記載されている。ここに記載されている文章と数式は、おそらく一般の方には理解し難いだろう。恥を隠さず言えば、本要約を書いている私も、数学者ではなく、この数式の意味や意義を理解するまでには至っていない。しかし、安心してほしい。この本を読むにあたって、数式自体を理解する必要はない。

数学者というと退廃的な、浮世離れした研究者というイメージが付きやすい。しかし、この本で描かれる数学者の日常は大変人間的なのである。皆さんもお気に入りのモノが何かないと、集中して作業ができないといった経験はないだろうか? これはセドリック氏も同じなようだ。問題にじっくり取り組む時間を確保し、さあこれからという時、お気に入りの紅茶を切らしていることが分かっても、通常であればあきらめるところだろう。しかしセドリック氏は深夜であっても、思索に必要な紅茶を取りに自転車を走らせ、研究機関まで取りに行ったというエピソードが描かれている。

また、新しく住み始めたプリストンでは、そのこだわりは日常の食事にまで及んでいた。「パリッとしたバゲットはプリンストンではほとんど期待ができない。」「生活必需品という意味でこの地に決定的に足りないものはチーズである。種類があまりに少ない」と、思わず本書内で愚痴をこぼすほどである。

また研究者といえども、仕事のポストに関してはサラリーマン同様、かなり気を使うものらしい。セドリック氏はフランスの数理科学研究所に匹敵する、アンリ・ポアンカレ研究所の理事会より、同研究所の所長に推薦されている。通常であれば喜んで拝受する所だが、セドリック氏はリヨン高等師範学校のラボ長のオファーを以前断っており、周りの同僚に「悪いように取られたくない」と考え保留したのだ。

しかし、噂は隠せぬもので同僚にあっという間に知られてしまうこととなる。結局はアンリ・ポアンカレ研究所に提示していた条件が全て受け入れられ、同研究所の所長に就任するのだが、この周りの反応を気遣いつつ、自身のポストを考慮する点は、実にサラリーマン的である。数学の研究者に対して多くの人が描くイメージと異なり、実に人間らしい生活を送っているらしいということが垣間見えるエピソードである。

【必読ポイント!】数学者の数学は我々の数学とは違う

IngaNielsen/iStock/Thinkstock
数学においても、チームで取り組むことが解決の近道となる

本書でも取り上げられている、著者セドリック氏が「新しい定理」を発表した論文は彼だけではなく、クレマン・ムオ氏との共著であった。事の始まりは2008年3月、リヨン高等師範学校4階の研究室でおこった。著者はクレマン氏にこう切り出すのだ。「大それたことなのは百も承知で、また、あの長年の難題に取り組んでいるんだ。非一様ボルツマン方程式の解の連続性についてだよ」。

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要約公開日 2014.12.12
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