「われわれが手にできるのは、われわれが称えるものだけだ」。FIRSTの創設者ディーン・ケイメン氏が試合の合間に言った言葉だ。
アメリカ文化が長年称えてきたものは、プロスポーツ選手や映画スター、もしくは最近まではウォールストリートの金融家たち。だとすれば、科学やテクノロジー、工学や数学を勉強し、将来その道に進もうと憧れをもつ子どもたちが少ないのもむりはないのかもしれない。しかし、この世界選手権FIRSTには、今シーズン4万2千人の高校生が、過去の常識とはまったく違う価値観を称えるために参加してきた。それは、工具ベルトとつなぎに身を固め、歯車比やコンピューターコードの話をし、自分たちのロボットが目の前のフィールドを動き回るたびに、笑い、泣き、ダンスを踊る。彼らの「発明」と「知性」を称えるという、アメリカの新しい〝クール〟な形が生まれつつある。
「高校生向けロボットコンテスト」FIRSTという新しい文化を生み出した、ディーン氏は、医療関係の機器を開発して巨額の冨を得たほか、DEKAという会社の経営者でもある。きっかけは、1989年の雨の日、彼が科学体験センターで直面した、子どもたちの科学への憧れのなさへの絶望であった。なにかやらなければならない。子どもたちに、頭を使って考えることが得意になりたいと思わせられるものを。科学や技術がどれほどすばらしいかを本当に教えられる、知性を競うスポーツを生み出さなければならない。それでいて、その世界なりのヒーローがいて、名選手の入る殿堂があり、ファンやコーチがいて、オリンピックもあるスポーツを。その後、ディーン氏はMITの機械工学の教授であるウッディー・フラワーズ氏と運命的な出会いを果たし、彼の「統合エンジニアリングとデザイン」という授業をヒントにし、1992年、FIRST第1回の競技会を開催したのだった。
それから2009年までの17年間で、FIRSTは大きな進歩を遂げた。第1回大会では参加チーム数が28チームだったのが、今では1800チーム近くにまで規模が膨らんだ。FIRSTに参加した高校生は、そうでない生徒よりも技術関連職業に就いた数が2倍近く、工学系の職業では4倍になったという実績もついた。受け身の「訓練」ではなく学んだことをどう利用するかを学ぶ「教育」をここでは体現しているのだ。
アメリカでは全体的に、Science、Technology、Engineering、Math(頭文字をとってSTEMと呼ばれる)分野に進む学生数があまり多いとはいえない。しかし、同時にこの分野に特に力をいれなければ、アメリカは二流の輸入国に成り下がってしまうという危機感をもっている。だからこそ、
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