知能には遺伝的要因が大きく関係している。そう聞くと、勉強ができるかは生まれつき決まっていて自力では変えられないものだと思うかもしれないが、そうではない。知能には遺伝要因と環境要因が半々で影響しているといわれる。つまり、知能は後天的にも向上させることができる。また、知能と学業成績は必ずしも直結していないこともわかっている。知能がさほど高くなくとも、学業成績を高めることはできる。
知能や学業成績は、自分の力で伸ばすことが可能である。能力が同じでもそれを活かせる子と活かせない子がいる。大切なのは学ぶ力だ。本書では、学ぶ力を「認知能力」「非認知能力」「メタ認知能力」の3つの側面から考えていく。
学習する際は、今ある知識を用いて新しい知識を理解しなければならない。文章を読んで理解したり既存の知識を引き出して用いたりすることは、知的活動と呼ばれる。最近の研究では、勉強ができるようになるかどうかは、知的活動以外の要因が深く関わることがわかってきている。2000年にノーベル賞を受賞した経済学者のヘックマンは、幼児期における教育の効果に関する研究データをもとに、幼児期にとくに重要なのは、IQなどで測られる認知能力ではなく、非認知能力を身につけることであると結論づけている。
非認知能力とは、自分をやる気にさせる力や忍耐強く物事に取り組む力、集中力、我慢する力、自分の感情をコントロールする力などである。いくら知的能力が高くても、やる気や忍耐力がなければ学力は向上しないのである。
非認知能力の中核をなすのは自己コントロール力だ。自己コントロール力についての研究の原点は、「マシュマロ・テスト」とも呼ばれる心理学者ミシェルたちの満足遅延課題を用いた実験である。これは、子どもにマシュマロを見せて、今すぐ食べるなら1個あげるが、研究者がいったん席を外して戻るまで待つことができたら2個あげると告げ、待つことができるかを試す実験だ。
幼児期に、より大きな満足のために欲求充足を延期することができた者は、成人初期から中年期になったときの追跡調査でも高い自己コントロール力を維持していて、学業面でも社会的にも成功していることが多いことがわかっている。つまり、幼児期に欲求充足を先延ばしできるかどうかで、その後の人生でうまく立ち回れるか予測できるということである。また、中高生を対象とした調査研究でも、自己コントロール欲の向上がその後の学業成績の向上につながることが確認されている。
3,400冊以上の要約が楽しめる