タイパの経済学

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タイパの経済学
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出版日
2023年09月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「タイパ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「タイムパフォーマンス」の略で、字義通りには「かけた時間に対してどのような効果が得られるか」を意味する。もちろん単に時間を短縮して節約するときにも使われる言葉なのだが、話題になるのはコンテンツ消費の文脈においてであることが多い。映画を観る時間を節約するために配信の早送りをする。ネタバレを見てから映画館に出かけていく。あるいはもはや本編は観ず、内容をまとめた動画を観てよしとする――こうした行動がZ世代を中心として広がっており、なじみのない世代を戸惑わせている。早送りで果たして映画は楽しめるのだろうか? ネタバレを知ってしまったらつまらないのではないか? そもそも本編を観ないなら、なんの意味があるのだろう?

こうした一見奇妙に思われる習慣であっても、経済学的に考えれば一定の合理性があるはずだ――というのが本書の立脚点である。類義語である「コスパ(コストパフォーマンス)」との差異にはじまり、Z世代を中心として現代における情報環境と生活の変化を分析し、タイパを追求する人々が果たしてなにを求めているのかを考えていく。

テクノロジーによって生活が変化すれば、価値観や文化も変遷していく。タイパはその現れのひとつにすぎないと言うこともできる。本書はタイパの議論を通じて、現代の消費社会やカルチャーがどのような状況にあるのか、考えるきっかけを与えてくれるだろう。

ライター画像
池田明季哉

著者

廣瀬涼(ひろせ りょう)
ニッセイ基礎研究所生活研究部研究員。大学院博士課程を経て2019年、ニッセイ基礎研究所に入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上にわたってオタクの消費欲求の源泉を研究している。昨今は自身の経歴を活かして若者(Z世代)の消費文化についても研究を行い、講演や各種メディアで発表している。NHK『おはよう日本』、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』、TBSテレビ『マツコの知らない世界』などで若者のオタク文化について制作協力。著書に『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか Z世代を読み解く』(金融財政事情研究会)がある。生粋のディズニーオタク。

本書の要点

  • 要点
    1
    タイパが求められるようになった背景には、サブスクの拡充をはじめとして、圧倒的な情報量を持ち、それを消費可能にしたプラットフォームの登場がある。
  • 要点
    2
    我々のコミュニケーションはコンテンツを通じて行われがちである。そのためコミュニケーションが可能な状態になるために、効率よくコンテンツを消化していくことが求められている。
  • 要点
    3
    コミュニケーションを円滑にするために、あるいはアイデンティティを記述するために、最短距離でその物事について語れる「オタク」と見なされる必要があることも、この傾向を強化している。

要約

タイパの正体

コスパとタイパ

「かけた時間に対しての効果(満足度)」や「時間的な効率」を指す「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉は、すでに定着している。映画を早送りする行動や、映像を違法に編集して内容をクイックに理解できるようにした「ファスト映画」などにその特徴が表れている。

今までも「コスパ(コストパフォーマンス)」という言葉があった。「支払った費用(コスト)と、それにより得られる効果(パフォーマンス)を主観で比較した際に、安い費用で高い効果が得られれば『コスパがいい(高い)』」とされた。

コスパとタイパの概念は、「効用の最大化のために消費の最適解を検討するという点」で非常に似ている。しかしその目的はかなり違っている。なぜならコスパにおいては「お金がないから安いモノを求める」という行動に合理性があるのに対し、ファスト映画やネタバレに合理性があるとは考えがたいからだ。

タイパ追求は合理的?
trekandshoot/gettyimages

昔と同じ24時間で、消費者はYouTubeその他の動画プラットフォームやサブスク、SNS、テレビ、マンガ、ゲーム、雑誌、音楽のすべてを消費しなくてはならない。情報が溢れかえるほど時間的な制約が厳しくなる。

しかし一方で、それを消費しないことも選べる。そもそもYouTubeやTikTokを明確な目的意識を持って視聴している人はどれくらいいるだろうか。こうした視聴は隙間の時間に行われることも多い。その時間を節約したところで有効に使われることはないのに、効率性を追求するのはなぜだろうか。

あえて内容を先に知ることで感動や興奮を得る権利を自ら放棄している。本当に興味があればその作品をちゃんと観るわけで、わざわざ時間をかけてネタバレを探し出し、映画を観た気になるだけの行動のどこに、合理性を見出すことができるだろうか。コンテンツは「鑑賞(芸術)対象から消費(消化)対象になっている」のである。

「消費」されるコンテンツ

圧倒的なコンテンツ量

では、なぜZ世代の若者を中心に「タイパ」が求められるようになってきているのだろう。

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要約公開日 2024.04.19
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